成長の終焉を理解できないアベノミクスの妄想が日本経済を破滅の淵に導く

東京工業大学 名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部・副本部長 平田 賢太郎

 アベノミクスの指南役の先生は、経済成長にはエネルギーが必要との科学の原理を知らない?
朝日新聞(2017/2/3)は、“アベノミクスに「手詰まり感」”のタイトルで、最近、経済の専門家の間でも、その限界が言わるようになったアベノミクスについて、その“生みの親の浜田米一内閣官房参与に聞く”として、これまでのアベノミクスに対する評価と、この「手詰まりの解消策」について浜田先生に聞いている。
――アベノミクスの評価について、浜田氏は、「最初の2年ほどは順調だった。日本銀行の金融緩和策もあり、株価上昇や、円安、失業率低下など大きな成果を上げた」、「だが、昨年11月までの約1年は手詰まり感があった。消費税率8 % への引き上げで、金融緩和で回ったはずのお金を回収し、消費が落ち込んだ。・・・」と答え、
――物価は2%どころか16年はマイナス。アベノミクスは失敗では、の質問に、「それは違う。物価目標達成は手段として望ましいが、もっと大事なのが人々の生活基盤となる雇用だ。失業率は低水準、有効求人倍率は25年ぶりの高水準。アベノミクスの前に戻りたい人はいない」と答え、
――手詰まりはどう解消できますか?の質問に、「財政拡大だ。・・・」とし、さらに、
――日本政府の借金は主要国で最悪。さらに財政再建が遠のきますが。との質問に対し、「国民や民間が潤うことが最重要。政府の借金は政治や経済が安定していれば将来世代に引き渡せる。国民は十分に貯蓄している。・・・」としたうえで、
「しかも政府が借金してお金を使えば、経済が活性化してデフレ脱却も進み、税収増でもどってくる。そういう財政再建の方が賢い」と答えている。
どうやら、浜田先生は、成長が何時までも続くと考えているようである。
いや、浜田先生だけではない。成長が何時までも続くと考えない限り、アベノミクスの成長戦略はなりたたない。それは、急速な経済成長が始まった産業革命以降、それを支えたのは、その成長を支えた安価なエネルギーとしての化石燃料があった(使えた)からである。やがて、化石燃料が枯渇に近づけば、経済成長ができないと言う当たり前の科学の原理が無視されている。

 

成長は何時までも続くとの科学の妄想はエネルギーが安かった高度成長時の名残である。
各国の経済成長の指標としては、世界の基準通貨となっている米ドルを基準とした実質GDPの値が用いられている。IEA(国際エネルギー機関)のデータ(日本エネルギー経済研究所のデータ(エネ研データ、文献1 )に記載)で与えられる各国の実質GDPの値と、それぞれの国の一次エネルギー消費量の関係を、先進諸国と途上国別で、それぞれ、図1と図2に示した。途上国と先進国の値を一つの図に表せなかったのは、図の両軸の値が一桁近く違う、すなわち、先進国と途上国の間の貧富の格差が大きいからである。

注;プロットポイントは下から1971、73、80、90、2000, 05、10、12、13年の値
図 1 途上各国の一人当たりの一次エネルギー消費と実質GDPの関係
(IEAデータ(エネ研データ、文献 1に記載)をもとに作成)

注;プロットポイントは下から1971、73、80、90、2000, 05、10、12、13年の値
図2 先進各国の一人当たりの一次エネルギー消費と実質GDPの関係
(IEAデータ(エネ研データ、文献1に記載)をもとに作成)

この図1に見られるように、途上各国でのGDPと一次エネルギー消費の間には、ほぼ比例関係がある。すなわち、成長にはエネルギーが必要だとの科学の原理が、そのまま成り立っていると見てよい。
ところが、先進諸国についての同じGDPと一次エネルギーの関係を示す図2では、最近、一次エネルギーを、すなわち、エネルギーの主体である化石燃料を使わないでも、経済成長ができるかのようになっている。
このエネルギーを使わないで成長ができるかのようになった理由として、下記の三つが考えられる。
先ず、よく言われるのは、産業部門における省エネルギーの徹底など、エネルギーの効率化である。しかし、この省エネの実行では、エネルギーを使わないで成長を促すことはできない。先進国がエネルギーを使わないで成長できるように見えるのは、産業のグローバル化のせいであろう。ここで、産業のグローバル化とは、先進国がエネルギー消費の大きい製造業などを途上国に移転することで、自国でエネルギーを使わないで、GDPを上げることができる仕組みである。図2に見られるように、先進国ではエネルギーを使わないでGDPを上げることができるが、その分のエネルギーは途上国で使われるから、世界全体ではエネルギーを使わない限り成長はできない。さらに、もう一つは、この産業のグローバル化と関連して、先進国のお金が、途上国への産業の移転の際の投資に使われ、先進国では、お金がお金を生むシステムができあがっている。

図3 世界、先進諸国(OECD 34 )、および途上国(非OECD)の一次エネルギー消費の年次変化
(IEAデータ(エネ研エータ(文献1に記載)をもとに作成)

とは言うものの、この産業のグローバル化と金融システムの利用による成長(GDPの増加で、見せかけの成長)で、いわゆる多国籍企業は利益を上げることができるが、国家(国民)の利益にはつながらない。したがって、これらのエネルギーを使わないでGDPを増加させる国際資本主義社会のステムにもどうやら、限界が見えてきているようである。すなわち、図2に見られるように、ごく最近では、先進国が金融緩和政策により投資を煽ってみても企業はそれに応えないから、GDPがほとんど増加しなくなっている。これが、いま、先進諸国の景気の低迷であり、水野和夫氏による資本主義の終焉である(文献3 参照)。
図2に示す先進国における、いわば見かけの成長要因を差し引いた実質的な成長は、むしろ一人当たりのエネルギー消費に現れると考えることができる。IEAのデータ(文献1に記載)から、世界、先進諸国(OECD34)と途上国(非OECD)のそれぞれの一人当たりの一次エネルギー消費の年次変化を図3に示した。
この図3に見られるように、一次エネルギー消費(化石燃料)で表される実質的な成長指標で示される先進諸国の成長は、完全に停止していると見てよい。この厳しい経済状態の現実を無視して、成長は何時までも続くとの妄想にしがみついて、国の借金を積み増しているのが、日本における浜田先生が指南するアベノミクスのさらなる成長を目的とした「財政拡大」政策である。
上記の浜田氏が言うように、「政府が借金してお金を使えば、経済が活性化してデフレ脱却も進み、税収増で戻ってくる」どころか、いまの日本の経済状況では、故志賀櫻氏が言うように、ハイパーインフレーションを起こして、財政赤字をチャラにする政策がとられることにならないようにと祈るだけである(文献4 参照)。

 

化石燃料の枯渇がもたらす貧富の格差の拡大が世界の平和を大きく脅かしている
先の図2に見られるように、日本を含む先進諸国が、産業のグローガバル化や金融政策によって、エネルギーを使わないで経済を成長させる仕組みは、もはや限界にきている。そのなかで、成長のためのエネルギーの主役である化石燃料の枯渇が迫ったことで、2010年頃をピークとして、先進諸国(OECD 34)の一次エネルギー消費の減少が始まったことが図3にはっきりと見ることができる。
一方で、図3に示す途上国の化石燃料の消費の増加が、途上国と先進諸国の間の貧富の格差の解消に貢献しているかと言うと、必ずしもそうとは言えない。
IEAのデータ(エネ研データ、文献1)に記載)から、先進諸国(OECD34)と途上国(非OECD)の一人当たりの実質GDPの年次変化を示した図4に見られるように、先進国の対途上国比率の値は20世紀中の13倍程度が2000年以降9倍程度に減少しただけで、一桁近い格差が、依然、続いている。今後、化石燃料の枯渇が近づくなかで、先進諸国に較べて人口増加の大きい途上国での一人当たりのエネルギー消費に比例するGDPの増加には、大きなブレーキがかかるであろう。
この貧富の格差が、いま、世界のエネルギー源の主役である中東石油の配分に不満を持つ人々によるアルカイダに始まり、ISにいたる国際テロ戦争をもたらし、世界の平和を大きく脅かしている。

図 4 世界、先進諸国(OECD 34)、途上国(非OECD)の一人当たり実質GDPの年次変化
(IEAデータ(エネ研データ(文献1) に記載)をもとに作成)

 

産業のグローバル化がもたらした貧富の格差の拡大が、米国のトランプ大統領による一国主義の恐怖をもたらしている
この先進諸国の経済成長の停滞のなかで、いま、大きな問題になっているのが、反グローバル化の流れである。すなわち、つい最近まで、エネルギーを使わないで先進諸国の成長を可能にしていた産業の途上国への移転、産業のグローバル化と、これに繋がる金融事業とに利益が集中する弊害が、先進国内、特に金融大国米国で国民の貧富の格差の拡大として顕在化している。
この産業のグローバル化による大きな事業利益が、一部の多国籍企業に独占される一方で、国家としてはゼロ成長が強いられている。例えば、GDPで表されると富の半分が人口の10 % に集中したとすると、残りの人口の90 %の国民の一人当たりのGDPは、今までの富が平均化されていたとした場合の (1/2)×0.9 = 0.45 倍、半分以下に減少してしまう計算になる。もっとひどいことが金融大国と云われる米国で起こっているようである。これが、いま、何とも訳の判あないトランプを大統領に祭り上げる原因となって、このグローバル化のもとになっていた自由貿易を退ける一国主義の台頭が、世界を大きな不安のなかに陥れている。

 

アベノミクスの訴えるさらなる成長は、日本経済を破綻に陥れる
この一国主義は、米国だけの問題ではない。英国のEU離脱に見られるように、EU圏内においても大きなポピュリズムの台頭となって、自由貿易を基本として経済大国にのし上がった日本経済にも深刻な影響を与えようとしている。すなわち、世界経済が一国主義に支配されるようになり、自由貿易がなくなれば、エネルギーについて6 %、食料についてもカロリーベースで39%と、世界一低い自給率の日本が、これらを輸入するお金を調達できなくなるからである。
化石燃料の枯渇が近づき、その配分の不均衡に基づく貧富の格差、それによる世界平和の侵害、このいわば三重苦を逃れる唯一の方策は、私どもが提案する「今世紀いっぱい、残された化石燃料を世界の全ての国が公平に分け合って大事に使う」ことでなければならない(文献 2 参照)。そのためには、現在、先進国の一員として享受してきた成長を抑制する新しい経済政策モデルを、世界に先駆けて創り、それを世界の全ての国との協力の下で実行に移すことを世界に訴えることこそが、先進諸国の一員としての日本の務めでなければならない。
この日本の役割と真っ向から対立するのが、財政出動によるアベノミクスのさらなる成長政策である。このさらなる成長政策は、政治権力を維持するためにアベ政権がつくりだした政治的な詐術以外の何ものでもない。その実行の結果は、国家経済に実質的な成長をもたらさないから、安倍政権の財政指南役の浜田氏の言うように、将来の税収によって国の借金を返済できることはあり得ないどころか、財政赤字の積み増しにより、日本経済を破綻の淵に陥れることは間違いない。恐ろしいことである。

 

<引用文献>
1.日本エネルギー経済研究所 計量分析ユニット 編;EDMCエネルギー・経済統計要覧2016, 省エネルギーセンター、2016年
2.久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉――科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する――電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月
3.水野和夫;資本主義の終焉、歴史の危機、集英社新書、2013年
4.志賀 櫻;タックスイーター――消えていく税金、岩波新書、2014年

 

 ABOUT THE AUTHER
久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

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