地球温暖化対策としての「パリ協定のCO2排出削減の要請を、残された化石燃料消費の節減の要請に置き換える」ことこそが、貧富の格差を解消し、世界平和の侵害を防ぐ唯一の方法になります

東京工業大学 名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部・事務局長 平田 賢太郎

 (要約)

① IPCCの主張する地球温暖化のCO2原因説は、実測データによる裏付けのない科学の仮説です。CO2の排出削減で温暖化が防止できるとの保証はありません。いま、世界にとって、地球上の人類にとって大事なことは、貧富の格差をもたらしている化石燃料消費の不均衡を正すことです
② 地球温暖化を防止するためのCO2排出削減のために有効とされたバイオ燃料の開発・利用は幻と消え去りましたが、農作物の輸出価格を維持するための農業政策としてのバイオ燃料の生産は、農作物輸出国の米国やブラジルなどで今でも行われています
③ 地球温暖化対策としてのCO2排出削減のためのいますぐの再生可能エネルギー(再エネ)電力の利用が、電力料金の値上げで国民に経済的な負担を強いる「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)」の適用により進められています。しかし、化石燃料の枯渇後、その代替としての再エネ電力は、このFIT制度の適用無しでの利用でなければなりません
④ 地球温暖化対策として、経済成長を前提とした化石燃料消費の増加の上でのCO2 の排出削減は、世界平和を侵害している貧富の格差を拡大させます。貧富の格差の解消による世界平和の回復のためには、全ての人や国が、残された化石燃料を公平に分け合って大事に使うことが求められなければなりません
⑤ 今世紀末までの世界各国の化石燃料消費を等しくする私どもの提案こそが、いま、国際的な合意を得て進められようとしている「パリ協定」の実行を可能とし、国際的な貧富の格差を解消する唯一の方法です
⑥ 地球温暖化の脅威が言われるなかで、それより怖い化石燃料消費の配分の不均衡を正すための「パリ協定でのCO2排出削減目標を化石燃料消費の節減に変える」とする私どもの提案の実行こそが、化石燃料の枯渇後、全ての国が自国産の再エネ電力のみに依存する貧富の格差のない恒久平和の世界を創り、人類の生存を守ることを可能にします
以下、本稿の解析用のエネルギー関連の統計データとしては、日本エネルギー経済研究所編「EDMCエネルギー経済統計要覧」のデータ(以下エネ研データ(文献1 ))を用いました。なお、解析結果の詳細については、私どもの近刊「化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉(文献2 )」をご参照下さい。

 

 (解説本文)

① IPCCの主張する地球温暖化のCO2原因説は、実測データによる裏付けのない科学の仮説です。CO2の排出削減で温暖化が防止できるとの保証はありません。いま、世界にとって、地球上の人類にとって大事なことは、貧富の格差をもたらしている化石燃料消費の不均衡を正すことです

昨年(2016年)のパリ協定の締結に全ての国の合意が得られたことに見られますように、いま、地球温暖化対策として、何としてもCO2の排出を削減しなければならないとするのが世界の常識となっているようです。そこに一石を投じたのが、トランプ米新大統領によるCO2の排出削減を目的とした「パリ協定」からの離脱宣言ですから、いま、トランプ大統領は世界中から悪者扱いされています。
しかし、地球温暖化が大気中のCO2濃度の増加によるとするIPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)の主張は、気候変動についてのシミュレ-ションモデルをスーパーコンピュータを用いて解いた結果が創り出した科学の仮説に過ぎません。このような気候変動についてのシミュレーションモデル計算の結果は、実際の観測結果と一致した時に初めて科学の原理として認められるのですが、生態系に影響を及ぼすような地球気温の上昇は、これから起こるかも知れない自然現象ですから、この仮説を実証する観測データは実在しません。
2014 ~2015年にかけて発表されたIPCCの第5次評価報告書によると、人類が、いまのまま化石燃料の消費によるCO2の排出を増加し続けると、今世紀末までのCO2の累積排出総量は7 兆トンに達し、地球気温が最大で 4.8 ℃上昇、海水面が60 cm 上昇して、地球生態系が取り返しのつかない大きなダメ―ジを受けるとされています。これが上記したIPCCによる科学の仮説です。
科学技術者としての私どもは、果たして地球上に、このようなCO2の排出をもたらす化石燃燃料資源量が存在するのであろうかとの素朴な疑問から、BP(British Petroleum)社により公表されている2011年末の化石燃料の確認可採埋蔵量(以下、可採埋蔵量と略記)の値から、それを全て使い果たした時のCO2排出総量を試算してみました。 結果は、表1 に示すように、CO2の排出総量の値は3.23兆トンにしかならないと計算されました。

表 1 化石燃料の可採埋蔵量(2011年末のBP社による)の値から計算した世界のCO2 排出総量の試算値 (BP社のデータ(エネ研データ(文献1)に記載)をもとに計算して作成)

注; *1 ; 化石燃料種類別の可採埋蔵量Rを同年の生産量Pで割った値 *2 ; IEA(国際エネルギー機関)データ(エネ研データ (文献1) に記載)による値、 *3 ;(CO2排出量)=(可採埋蔵量)×(CO2排出原単位)として計算した。ただし、(石油換算トン) / (石炭 トン) = 0.605、 (石油換算トン)/ ( 石油kℓ)= 0.90 とした。 *4 ;石炭、天然ガス、石油 それぞれのCO2排出量、括弧内数値は、合計量に対する比率 %

ここで、可採埋蔵量とは、現状の科学技術の力で経済的に採掘可能な資源量の値です。したがって、将来、採掘技術の進歩と経済発展により、この可採埋蔵量は増加することが予想されます。しかし、地球上の有限な化石燃料資源の消費量を、これ以上増加させれば、その国際市場価格は高騰し、これを使えない人や国が出てきます。これにより、いま大きな問題になっている貧富の格差がさらに拡大し、世界の平和がさらに侵害されることになります。そこで、私どもは、地球上に残された化石燃料資源を大事に使う方法として、後述する(本稿 ⑤)ように、今世紀一杯の年間平均の化石燃料消費量を現在(2012年)の値に止めることを提案しています。
この提案が実現した場合の今世紀末までのCO2の累積排出総量を、表1 に示したと同様の方法で求めてみますと、約2.8兆トンと計算されます。これらの値であれば、もし、IPCCが主張する地球温暖化のCO2原因の仮説が正しかったとしても、地球気温の上昇幅は、人類が地球上の気候変動の歴史のなかで、何とか耐えることのできるとされる2 ℃ 以内に抑えられることになります。
いま、世界にとって、地球上の人類にとって大事なことは、現代文明社会を支えているエネルギー源としての化石燃料の枯渇が迫るなか、残された化石燃料を、全ての人や国が分け合って大事に使うことでなければなりません。こうすれば、IPCCが主張する、化石燃料の消費に伴って排出されるCO2に起因するとされる科学の仮説、「地球温暖化の脅威」が正しかったとしても、それを最小限に止めることができます。

 

② 地球温暖化を防止するためのCO2排出削減のために有効とされたバイオ燃料の開発・利用は幻と消え去りましたが、農作物の輸出価格を維持するための農業政策としてのバイオ燃料の生産は、農作物輸出国の米国やブラジルなどで今でも行われています

地球温暖化対策としてのCO2の排出削減の方法として、先ずとりあげられたのは、バイオマスのエネルギー利用です。CO2を排出する化石燃料と違って、大気中のCO2を吸収して成長するバイオマスは、それを燃焼しても、CO2の吸収量と排出量がバランスして大気中のCO2濃度は増加しないとの「カーボンニュートラル」とよばれる実際には成立しない非科学的なトリックを利用した自動車用燃料としてのバイオ燃料の生産が、世界的に大きなブームを巻き起こしました。しかし、このバイオ燃料ブームは、CO2の排出削減に何の貢献もすることなく、地球温暖化対策の役目を終えました。
では、いま、バイオ燃料は使われていないのかと言うと、そんなことはありません。もともと、天候による収穫量変動の大きい農作物からつくられるバイオ燃料の生産は、農業政策として、農産物の輸出国において、その輸出価格の下落を防止するために行われてきましたし、いまでも行われています。サトウキビからつくられる蔗糖の輸出価格の安定化のために始められたのがブラジルの液体燃料(エタノール)の生産でした。地球温暖化対策だとして、この同じ方法を利用して、輸出用のトーモロコシから燃料用のエタノールを生産し、ガソリンに数%程度混入するようになった米国は、いまや、ブラジルを追い抜いて世界一のバイオ燃料生産大国になっています。この米国のとうもろこしの最大の輸出国が、カロリーベースの食料自給率40 %以下の日本です。日米軍事同盟の代償としての止むを得ない日本の負担なのでしょうか?
エネ研データ(文献1 )に記載のBP社のデータから、世界各国のバイオ燃料生産量の年次変化を図1 に示しました。この図1に見られるように、CO2の排出削減による地球温暖化対策とは無関係に農業政策として進められている農作物の輸出大国の米国とブラジルで、2014年の世界のバイオ燃料生産量の61%を占めました。しかし、この2014年の世界のバイオマス燃料生産量は、同じ年の世界の一次エネルギー消費量(石油換算量)の僅か0.52 % しか占めていません。これがBP社のデータとして2015年の世界のバイオ燃料の生産量の値が消えてしまった理由ではないかと考えられます。
すなわち、もはや、バイオ燃料は、化石燃料代替としても、したがって、CO2の排出削減のための地球温暖化対策としても、その利用価値は完全に消え失せたと考えるべきです。

図 1 世界各国のバイオ燃料の年間生産量の年次変化
(エネ研データ(文献 1 )に記載のBP社のデータをもとに作成)

2000年以降の国別のバイオ燃料の生産量を示すこの図1に見られるように、日本の値は計量されていません。しかし、カロリーベースの食料自給率が40 %に満たない日本においても、2005年度から、国民のコメ離れによる余剰米や、新しく開発された反収の多い燃料用米を原料としたバイオ燃料(エタノール)の生産・利用を主体とするバイオマスエネルギーの開発・利用の国策「バイオマス・ニッポン総合戦略」が、地球温暖化対策として進められたことが、今では、多くの人の記憶から消え去ろうとしています。この国家プロジェクトをリードしていたのが、日本の最高学府の長だったものですから、メデイアも地球温暖化を防止するためには、どうしても、バイオ燃料の利用拡大を図るべきと考えたのでしょう。このバイオ燃料の宣伝に躍起になっていた某新聞のオピニオン欄への「自動車をバイオ燃料で走らすべきでない」とする私どもの一人の投稿は、「当社の見解と違う」との理由で没にされてしまいました。止むを得ず、単行本として、世に訴えたのが「幻想のバイオ燃料(文献3 )」と「幻想のバイオマスエネルギー(文献4 )」です。しかし、これらの正論は、一部の科学技術者の賛同を得るに止まり、国のエネルギー政策を改めることはできませんでした。
結果として、この無益な国策の推進に、5年間で6兆円を超す国民の貴重なお金が、地球温暖化の防止のためとしても、エネルギー生産のためとしても、何の貢献も果たすことなく消え失せてしまいました。
なお、ここでは、バイオマスのエネルギー利用として、バイオ燃料の利用について述べましたが、バイオ燃料以外のバイオマスのエネルギー利用についても、その量的な制約が非常に大きいことを付記しておきます。

 

③ 地球温暖化対策としてのCO2排出削減のためのいますぐの再生可能エネルギー(再エネ)電力の利用が、電力料金の値上げで国民に経済的な負担を強いる「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)」の適用により進められています。しかし、化石燃料の枯渇後、その代替としての再エネ電力は、このFIT制度の適用無しでの利用でなければなりません

地球温暖化防止のCO2排出削減対策として、このバイオ燃料と同時に利用されるようになったのが、再エネ電力の開発・利用の拡大です。しかし、この再エネ電力を、現用の化石燃料の代替として、その利用を拡大するには、いくつかの大きな問題があります。
先ず問題になるのは、いま、私どもが使っているエネルギーは、化石燃料資源量換算で表される一次エネルギーとしての電力と同電力以外の2種類に大別できますが、再エネ電力は、一次エネルギー(電力)としてしか利用できないことです。
エネ研データ(文献1 )に記載されているIEA(国際エネルギー機関)データをもとに、化石燃料資源量換算の一次エネルギー(電力)の値を用いて計算した一次エネルギー基準の電力化率(一次エネルギー(電力)の一次エネルギー(合計)に対する比率)の値を、通常用いられている最終エネルギー基準の電力化率の値とともに表2に示しました。ただし、IEAデータとして与えられている一次エネルギー(電力)の化石燃料資源量換算の方法には問題がありますが(文献2 参照)、ここでは、日本での値を含めてIEAデータの値をそのまま示しました。化石燃料消費主体のエネルギー供給の現状では、この表2に示すように、国別にかなりの違いがありますが、一次エネルギー基準の電力化率は、世界平均では35 %程度と、一次エネルギー(電力)のなかの1/3強しか占めません。上記(本稿②)したように、一次エネルギー(電力以外)として期待されたバイオマスエネルギーには大きな量的な制約があるために、将来の化石燃料枯渇後のエネルギーを再エネ電力のみに依存しなければならない社会では、残りの65.%程度の一次エネルギー(電力以外)を再エネ電力で賄わなければならなくなり、例えば、石油で走る自動車を再エネ電力で走る電動車に変えるなど、社会のエネルギー消費構造を大幅に変えなければならなくなります。

表 2 世界および各国の電力化率の値、%、2014年の値
(エネ研データ(文献1 )に記載のIEAデータから)

注 *1 ; IEAデータから、一次エネルギー(電力)の値を一次エネルギー消費で割って求めた *2 ;国内でも用いられている一次エネルギー(電力)の方法で計算した一次エネルギー電力化率の値は、47.5 、*3; 最終エネルギー(電力)を最終エネルギー消費に対する比率としてIEAデータに与えられている

もう一つの問題は、現在の再エネ電力は、それをつくるには有限の化石燃料資源が大量に使われていますから、科学的には、再生可能とは言えないことです。したがって、化石燃料が枯渇した将来、再エネ電力のみに依存する社会では、その再エネ電力も再エネ電力でつくらなければなりません。その時には、現在の化石燃料利用主体の社会に較べて、エネルギーの利用効率が著しく低下します。すなわち、再エネ電力に依存する社会では、資本主義社会に求められる経済成長が継続できなくなり、ゼロ成長、またはマイナス成長が強いられることになります。これを言い換えると、化石燃料が枯渇後の化石燃料の代替としての再エネ電力の利用は、慌てることはありません。化石燃料の国際市場価格が高騰して再エネ電力を利用する方が経済的に有利になってからでよいのです。
これに対して、地球温暖化対策としてのCO2の排出削減のために、いますぐの火力発電の代替としての再エネ電力の利用の拡大のために、市販電力料金の値上げにより、広く国民に経済的な負担を強いている「再生可能エネルギー固定価格買取(FIT)制度」が適用されています。このFIT制度の適用では、再エネ電力の導入量を高めるために、発電コストの高い再エネ電力に対して高い買取価格が設定されています。結果として奇妙なことが起こっています。
エネ研データ(文献1 )に記載のBP社のデータから、世界各国の新エネルギーの主力とされている風力発電と太陽光発電の設備導入量の年次変化をそれぞれ 図 2 および図 3 に示しました。
これらの図に示されている発電設備の設備容量の値と、この設備の年間発電量の間には、次式で示される関係があります。
(年間発電量)
=(発電設備容量kW)×(年間設備稼働率)×(8,760 h/年)      ( 1 )
ただし、年間設備稼働率の値は、設備の立地条件により変わります。
いま、この設備稼働率の値を、世界平均で、風力で25 %、太陽光で11 %として、それぞれの年末累積発電量の値を概算して見ますと、2014年で、その値の世界の総発電量に対する比率は、風力で約3.5%となり、この値での発電量の伸びが今世紀いっぱい続くとすると、今世紀末の比率は約19 %と概算されます。これが、現在、世界の新エネルギーの発電量のなかの75 % 程度を占める風力発電の利用の実態です。

図 2 世界各国の風力発電の年末累積設備容量の年次変化
(エネ研データ(文献1 )に記載のBP社データをもとに作成)

図 3 世界各国の太陽光発電の年末累積設備容量の年次変化
(エネ研データ(文献1 )に記載のBP社データをもとに作成)

一方、図3 に示すように、特に日本で、その導入が積極的に進められている太陽光発電は、世界平均の年間設備稼働率を11 % として、上記同様の計算を行ってみますと、その発電量は、2014年の世界の総発電量の0.75 %、現在の伸びが21世紀末まで続くとして概算される発電量は現状の世界の総発電量の3.8 %にしかなりません。しかも、この発電では、その高い発電コストをカバーするために、FIT制度での高い電力買取価格が設けられていますが、このFIT制度を最初に導入したEUでは、電力料金の高騰に対する国民の反撥から、このFIT制度での買取価格の改訂が行われました。この結果、図3 に見られるように、EU各国の太陽光発電の導入量は軒並み頭打ちになりました。
電力料金の値上げで、国民の生活や産業に大きな影響が与えられることが予想されるとする産業界の反対で、EUに較べて10年近く導入が遅れた日本でも、3.11福島の事故により、原発電力の代替に再エネ電力の利用が必要だとして導入されたFIT制度ですが、EU同様、この制度の問題点が明らかになり、日本でも、つい最近、買取価格の改訂が行われましたから、今後、事業用太陽光発電(メガソーラ)の導入の伸びが停滞することは避けられないと考えます。
なお、人口当たりの国土面積が小さい日本における太陽光発電の導入可能量には、環境省による再エネ導入可能量の調査報告書から、私どもが計算した再エネ電力導入可能量の推算値を示す表3 に見られますように、大きな制約があります。すなわち、太陽光発電の導入可能量の推定値は、住宅と非住宅(メガソーラ)を合わせても、現状の国内総発電量の13 % 程度にしかなりません。

表 3 「再エネ電力種類別の導入可能量」の推定値
(環境省報告書のデータをもとに計算して作成)
太陽光(住宅)太陽光(非住宅)風力(陸上)風力(洋上)中小水力 地熱(バイオマス)*1
導入ポテンシャル 百万kWh 31,536   117,700   713,824   4,876,758 82,221 87,074 ( 9,280 )
同対国内発電量比率*2 %  2.7   10.2    60.1 411 7.1   7.5 ( 0.8 )
注 *1;環境省報告書には記載がない。国内の人工林が100 % 利用されたと仮定し、用材の生産、使用の残りの廃棄物を全量発電用に利用した場合の推算値 *2 ;各再エネ電力種類別の導入可能量の値の国内合計発電量(2010 年)1,156,888百万kWhに対する比率

いま、日本で、その開発利用が進められている再エネ電力には、他に、中小水力、地熱、バイオマス発電がありますが、これらの導入可能量の現在の総発電量対する比率は、表 3に見られるように余り大きくありません。一方、風力発電の導入可能量は、洋上風力を含めると470 %もあり、しかも、風力発電の発電コストは、現状で、FITの適用無しにでも、その立地により、導入可能なものがあるとされています。現在、日本において、その利用を阻んでいるのは発電立地からの送電線の設備コストとされていますが、長期的な視野に立った化石燃料枯渇後の再エネ電力のみに依存する社会の電力の主体は、風力になると考えるべきです。

 

④ 地球温暖化対策として、経済成長を前提とした化石燃料消費の増加の上でのCO2 の排出削減は、世界平和を侵害している貧富の格差を拡大させます。貧富の格差の解消による世界平和の回復のためには、全ての人や国が、残された化石燃料を公平に分け合って大事に使うことが求められなければなりません

上記したように、CO2排出削減のための再エネ電力の導入では、地球温暖化対策としての今すぐのCO2排出削減の目的を達成することができません。そこで考えられたのが、化石燃料の燃焼排ガス中からCO2を大気中に排出させない方策の適用です。具体的には、化石燃料の燃焼排ガス中からCO2を抽出、分離して、地中深く埋め立てるCCSとよばれる方法の採用です。
IPCCも、現状で、今すぐ、大気中へのCO2排出を削減するための有効な方法として、このCCSの方法の採用を推奨しています。しかし、この方法は、化石燃料消費量増加の現状を肯定した上で、CO2の大気中への排出量を削減するもので、地球上の化石燃料資源量の枯渇を早めることになり、結果として、化石燃料の国際市場価格を上昇させ、人類社会の貧富の格差を現状以上に拡大させることになります。
いま、世界平和が大きく侵害され、人類の生存の危機さえ言われるようになっているのは、タリバンに始まり、ISに至る、宗教に結び付いた国際テロ戦争ではないでしょうか?これを軍事力により抹殺しようとした、先進国主導の有志連合への積極的な加担を表明した安倍首相の発言で、もともと、イスラム過激派による対象とされていなかった日本までもが国際テロの対象とされてしまいました。
中東におけるISの拠点は、先進諸国の有志連合の軍事力により失われつつありますが、イスラム過激派によるテロは、世界に拡大しています。すなわち、ISの輩出の原因となった地球上の貧富の格差が解消しない限り、一般市民まで巻き込んでいるテロ戦争を廃絶すことはできないと考えるべきです。
この貧富の格差を解消する方法として、私どもが提案しているのが、化石燃料の枯渇が近づくなかで、残された化石燃料を、全ての国が、いや全ての人が、公平に分け合って大事に使うことです。具体的には、年次増加を継続してきた世界中の一人当たりの化石燃料の消費量を現状(2012年)の値に止めることです。これに対して、経済力のある先進諸国が、今後も成長のためのエネルギー源としての化石燃料消費の増加を継続すれば、化石燃料資源の枯渇を早め、その国際市場価格が高騰して、貧富の格差がますます拡大し、テロ戦争による世界平和の侵害が続くことになります。

 

⑤ 今世紀末までの世界各国の化石燃料消費を等しくする私どもの提案こそが、いま、国際的な合意を得て進められようとしている「パリ協定」の実行を可能とし、国際的な貧富の格差を解消する唯一の方法です

世界の化石燃料消費の節減対策の具体策として、私どもは、世界中の全ての国の一人当たりの化石燃料消費量を等しく現在の(2012年)の世界平均の値1.54 石油換算トン/人/年とすることを目標とし、その目標の達成年を2050年とすることを提案しています。ただし、各国の人口に増減が予想されますので、2050年の目標値は、この人口の増減を補正した値とします。すなわち、人口増加の大きい国には、2050年の化石燃料の消費量は、この人口の増加比率分の節減が要求されます。
この私どもの提案する世界の化石燃料消費の節減の具体案に関連して、エネ研データ(文献1 )に記載のIEAデータから、世界の化石燃料消費の大きい各国の一人当たりの化石燃料消費の値の最近の年次変化を図4に示しました。この図4に見られるように、現状では、先進国と途上国の間の一人当たりの化石燃料消費量の値に大きな違いがあります。したがって、図4中に星印として示した私どもの提案目標の2050年の一人当たりの化石燃料消費量1.54石油換算トン/年の達成には、現状からの大幅な化石燃料消費の節減を迫られる先進国にとっては、大きな困難が予想されますから、この私どもの提案は、実行困難な理想論とみなされるかもしれません。
この図4の各国の一人当たりの化石燃料消費量を、それぞれの国の一人当たりのCO2の排出削減量に置き換えて示したのが図5 です。ただし、この図5 の2020年および図2030年の値は、図中の注②に示したように、パリ協定の地球温暖化対策として各国が自主的に申告しているCO2排出削減目標から計算した一人当たりのCO2排出量の推定値を示しています。

注; 図中、星印は、私どもが提案する世界の全ての国に共通の2050年の一人当たりの化石燃料消費量の値です
図 4 世界各国の一人当たりの化石燃料消費量の年次変化
(エネ研データ(文献1)に記載のIEAデータをもとに作成)

注; ① 2050年の十字印は、世界の全ての国に共通の一人当たりのCO2排出量の目標値、2012年の世界の一人当たりのCO2排出量4.53 トン/人の値、② 各国の2020年および2030年の各国の値は、パリ協定のそれぞれの国の自主的な目標値から計算したCO2排出量の値
図 5 世界および各国の一人当たりのCO2排出削減の年次変化
(エネ研データ(文献1 )に記載のIEAデータをもとに作成)

この図4と図5を比較して頂けば判るように、世界の全ての国が協力して、私どもが提案する図4に示すような化石燃料消費の節減を行うことができれば、結果として、図5に示すようなパリ協定で決めた世界のCO2排出削減の目標の達成が可能となります。したがって、はじめ(本稿①)に述べたように、今世紀中の世界のCO2の排出総量は2.8兆トンに止まると計算されますから、IPCCが主張する地球温暖化のCO2原因の仮説が正しかったとしても、今世紀末の地球気温の上昇幅は、人類の歴史のなかで耐えることのできたとされる2℃以内に止まります。
ところで、パリ協定が求めるCO2の排出削減の目的は、地球温暖化の防止ですが、上記(本稿①)したように、CO2の排出削減を実施しても、地球温暖化が防止できるとの科学的な保証はありません。これに対して、私どもが提案する化石燃料消費の節減であれば、排出されるCO2は確実に減少しますから、IPCCが主張する地球温暖化の仮説が、もし、それが正しかったとしても、それを防ぐことができます。と言うよりも、地球温暖化の防止を目的とした、パリ協定が成果を上げる唯一の方法が、この私どもの化石燃料消費の節減案の実行なのです。
はじめに(本稿①)述べたように、いま、米国のトランプ大統領が、このパリ協定から離脱すると言って大きな問題になっています。その理由として、現行のパリ協定での地球温暖化対策としてのCO2の排出削減では、嫌われ者になっている石炭の使用が制限され、米国の石炭産業や鉄鋼産業が衰退するとともに、CO2の排出削減のための途上国への援助資金を米国が過大に支払うことになっていることが挙げられています。これに対して、この私どもが提案する化石燃料消費の節減であれば、米国に経済的な負担を強いることなく、可能な限りの化石燃料消費の節減に協力して頂ければよいので、世界平和の侵害による難民の受け入れを阻む一国主義を掲げるトランプ大統領にも協定離脱の理由が無くなるはずです。

 

⑥ 地球温暖化の脅威が言われるなかで、それより怖い化石燃料消費の配分の不均衡を正すための「パリ協定でのCO2排出削減目標を化石燃料消費の節減に変える」とする私どもの提案の実行こそが、化石燃料の枯渇後、全ての国が自国産の再エネ電力のみに依存する貧富の格差のない恒久平和の世界を創り、人類の生存を守ることを可能にします

いま、地球温暖化の脅威が盛んに言われていますが、実は、現実の世界で、それより怖いのは、化石燃料が枯渇に近づき、その国際市場価格が上昇して、その配分の不均衡から、それを使える人と使えない人が出て来る貧富の格差です。この貧富の格差が、いま、タリバンに始まり、ISに至る国際テロ戦争を引き起こし、世界平和を侵害しています。
この世界平和の侵害の原因になっている化石燃料消費の不均衡を是正するには、上記(本稿⑤)したように、世界の全ての国が、今世紀末までの一人当たりの年間平均の化石燃料消費量を、現状(2012年)の世界平均の値1.54石油換算トン/年以下に抑制すべきとする私どもの提案を実行可能とする以外にありません。
やがて、化石年燃料が枯渇して、人類が生存のためのエネルギーを再エネ電力か原子力エネルギーに依存しなければならない時が確実にやってきます。しかし、人類の生存を根底から脅かしかねない原子力エネルギーの利用を否定すれば、再エネ電力の利用以外にありません。したがって、人類の持続的な生存のための再エネ電力のみに依存する社会を創ることが、今世紀に生きる人類に課せられた究極的な命題でなければなりません。
この究極的な命題の達成を可能にするには、地球上の全ての国が、自国の経済を自立できるためのエネルギーを自国産の再エネ電力に依存して、エネルギー的にも自立できるようにすることです。それを、可能にする具体策が、いま、国際的な合意を得て進められている「パリ協定で求められているCO2の排出削減を化石燃料消費の節減に置き換えるべきだとする」私どもの提案の実行です。
この化石燃料消費の節減策の実行は、地球温暖化対策としてのCO2の排出削減対策とは異なり、今すぐに慌てる必要はありません。上記(本稿⑤)の図4に示した化石燃料消費の節減目標の年次計画にしたがって、ゆっくりと進めればよいのです。
なお、この図4に示す化石燃料の節減対策の実行に際して留意すべきことがあります。それは、化石燃料消費の節減は、先進諸国と、すでに、その目標値を超えている新興途上国の中国のみが行えばよく、中国を除く途上国の多くにはその必要がないことです。
もう一つ留意すべき大事なことは、先進諸国における化石燃料の節減のためには、経済成長の抑制が優先的に実行されなければならないことです。この先進諸国における成長の抑制が行われない限り、貧富の格差の拡大による世界平和の侵害は、今後、一層、深刻なものになることになることが予想されます。
化石燃料のほぼ全量を輸入に頼って経済成長を続けてきた先進国の一員としての日本には、化石燃料枯渇後の世界で、国産の再エネの使用を主体とした安定なエネルギー供給による恒久的な平和の維持のもとでの人類の生存を図る道を創るとする私どもの提案を世界に向って訴える大きな責任があります。
いま、先進諸国間に、自国さえよければよいとする一国主義が蔓延するなかで、この私どもの提案が採用されなければ、真っ先に沈没するのが、アベノミクスのさらなる成長で、国家財政赤字を積み増している、現在のエネルギー自給率6 %、食料自給率38%の日本です。世界の恒久平和の確立こそが、日本が、化石燃料の枯渇後に生き残る道です。

 

 <引用文献>

1.日本エネルギー経済研究所 計量分析ユニット 編;EDMCエネルギー・経済統計要覧2017, 省エネルギーセンター、2017年
2.久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉――科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する――電子出版 Amazon
Kindle版 2017年2月5日
3.久保田 宏、松田 智;幻想のバイオ燃料――科学技術的見地から地球環境保全対策を斬る、日刊工業新聞社、2009
4.久保田 宏、松田 智;幻想のバイオマスエネルギー――科学技術の視点から森林バイオマス利用のあり方を探る、日刊工業新聞社、2010年

 

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久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

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