世界の一国主義の台頭が世界の平和を侵害し、日本の経済を苦境に陥れようとしています(その1) 経済成長を支えてきた化石燃料枯渇の危機が迫っています

東京工業大学 名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部・副本部長 平田 賢太郎

(要約);

① 化石燃料資源の枯渇が近づくなかで、世界の一国主義の台頭が、国際間の貧富の格差を拡大し、世界平和を脅かすとともに、日本経済を破綻の危機に陥れようとしています

② 経済成長のエネルギー源である化石燃料資源の自給可能の比率を表わす「一次エネルギー自給率」の値からみて、異常に低い値を示す日本を含めて、多くの先進諸国では、経済成長のエネルギー源を輸入化石燃料に依存しなければならない状況が続いています

③ 経済成長のエネルギー源の化石燃料の全量を輸入に依存しなければならない日本において、化石燃料(石油)の枯渇に伴う、その輸入価格の年次増加は、アベノミクスのさらなる成長戦略を崩壊させ、日本経済を破綻の淵に陥れます

④ 中東の石油に依存しないで、自国産の石油で経済成長を継続できる国は、極めて限られています。すなわち、石油については、一国主義は通用しません。全ての国が協力して、残された資源量を大事に分け合って使うことが、国際的な貧富の格差を解消し、世界平和のなかで人類が生き延びる道です

⑤ 資源量の枯渇が迫っている化石燃料(石油)に代わって、当面、文明社会の維持に使われなければならないのは、地球温暖化対策のために嫌われ者になっている化石燃料(石炭)です。全ての国が協力して世界の化石燃料消費量を現在の値以下に抑えれば、石炭を使ってもIPCCが主張する温暖化の脅威は起こりません。温暖化より怖いのは、経済力のある覇権国の一国主義の成長の継続のよる化石燃料消費の増加です。

⑥ 世界が一国主義を脱却して、地球上に残された化石燃料を分け合って大事に使いながら、国産の自然エネルギーに依存する格差の無い平和な世界を創ることが、いま、人類に求められています。これができない時に真っ先に沈没するのが資源小国日本です。

 

(解説本文):

① 化石燃料資源の枯渇が近づくなかで、世界の一国主義の台頭が、国際間の貧富の格差を拡大し、世界平和を脅かすとともに、日本経済を破綻の危機に陥れようとしています

産業革命以降、世界の経済成長を支えてきた化石燃料資源量が枯渇を迎えようとしています。ここで枯渇とは、現在の科学技術の力で経済的に採掘可能な資源量が乏しくなってきて、その国際市場価格が高騰し、これを使えない国や人々が出て来ることを指します。
一時、シェールガスやシェールオイルのブームで、化石燃料資源の枯渇は起こらないかのように言われましたが、いざ掘ってみると、経済的に採掘可能な化石燃料の資源量には大きな制約があることが判りました。
結果として、現在、経済成長のエネルギー源となっている化石燃料消費配分の不均衡が、国際的にも、また国内でも貧富の格差を拡大させました。これに宗教が結びついた国際テロ戦争による世界平和の侵害に伴う難民問題の発生で、アメリカのトランプ大統領の出現に代表される世界の先進諸国における一国主義が台頭してきています。
この自国さえよければよいとの一国主義の台頭は、シリアの問題、北朝鮮の問題などの国際平和の侵害を解決するための国際間の協調を困難にするだけではありません。貿易立国を国是として、自由貿易のなかで、成長のエネルギー源の化石燃料のほぼ全量を輸入に依存して、さらなる成長を訴えるアベノミクスの経済政策に致命的な打撃を与えることになるでしょう。
この世界の一国主義をもたらす原因をつくるようになった化石燃料の枯渇については、私どもの近刊:「化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉(文献1 )」を参照して頂くことにして、本稿では、英国のEU 離脱や米国のトランプ大統領の出現にみられる、まさかと思われた、一国主義の台頭が、世界の平和と日本の経済にどのような影響を及ぼすかについて、科学技術の視点からの私どもによる考察を加えたいと思います。

 

② 経済成長のエネルギー源である化石燃料資源の自給可能の比率を表わす「一次エネルギー自給率」の値からみて、異常に低い値を示す日本を含めて、多くの先進諸国では、経済成長のエネルギー源を輸入化石燃料に依存しなければならない状況が続いています

世界の経済成長を支えてきた化石燃料が枯渇を迎えようとしているいま、各国のエネルギーの自給率が、今後のそれぞれの国の経済成長に大きな影響を与えることが予想されます。この経済成長のためのエネルギーとは、化石燃料資源の消費量で表される「一次エネルギー」でなければなりません。しかし、この化石燃料資源量は、地球上で大きく偏在するために、現状では、それぞれの国における、この一次エネルギー消費量のなかの国産の資源量としての一次エネルギー消費量の比率で与えられる「一次エネルギー自給率」の値が問題にされなければなりません。
この世界各国の「一次エネルギー自給率」の値は、日本エネルギー経済研究所編の「EDMCエネルギー経済統計要覧(以下エネ研データ(文献2 )と略記)にIEA(国際エネルギー機関)のデータ(以下IEAデータ)として記載されています。このIEA データに与えられているエネルギー源種類別の一次エネルギー消費の値をもとに計算されたとされる「一次エネルギー自給率」の値を表1 のIEAデータとして示します。
しかし、このIEAデータでは、国産のエネルギー源とされる化石燃料以外の原子力、水力および自然エネルギー(国産の再生可能エネルギー、以下、再エネと略記する)の一次エネルギー消費の値は、エネ研データ(文献2 )の「解説」に記されているように、これらのエネルギー源の化石燃料代替としての値となっていません。そこで、下記の(補遺)に示すようにして、化石燃料以外の原子力、水力および再エネの電力として供給される量を、その発電に要する化石燃料資源量として表した一次エネルギー消費量に換算することで、国産分の一次エネルギー消費の値を求め、それを改めて、「改訂一次エネルギー自給率」として、その値を計算して、エネルギー消費の多い国での、その計算結果を表1に示しました。

表 1 主要国の一次エネルギー自給率の値、IEAデータに与えられている値と、化石燃料以外の国産電力を資源量として一次エネルギー消費量に換算した場合の「改訂一次エネルギー自給率」の値、%
(IEAデータ(エネ研データ、文献2 に記載)をもとに計算して作成)

 

注 * 1; IEAデータに記載されている日本の一次エネルギー消費のデータから、国産の石炭が1.2百万トン生産されている日本の国産の化石燃料一次エネルギー消費量を1 Mtoe(石油換算百万トン)として計算される一次エネルギー自給率の値は 4.4 %となります。6.02 % の数値の根拠は不明です。 * 2;化石燃料の代替として用いられている国産の原子力、水力、再エネ電力等の単位発電量当たりの一次エネルギー消費量換算に、化石燃料による火力発電での値を用いて求めた改訂一次エネルギー消費量をもとに計算した「改訂一次エネルギー自給率」の値。具体的な計算例は(補遺)に示しました。

この表1 に見られるように、IEAデータに与えられる一次エネルギー自給率の値と、化石燃料以外の発電量を化石燃料代替の一次エネルギー消費量とした「改訂一次エネルギー自給率」の両者の値には余り大きな違いがないことが判ります。これは、現状では、エネルギー消費の主体が化石燃料であり、化石燃料以外の利用比率が小さいためです。
本来であれば、全ての国で、この「改訂一次エネルギー自給率」の値を計算し直すべきですが、ここではIEAデータに与えられた各国の一エネルギー自給率の値をそのまま用いた各国の「一次エネルギー自給率」の値を図1 に示しました。
この図1 に見られるように、いま、経済成長を支えているエネルギー源の化石燃料を自給できている国は多くなく、エネルギー消費の大きい先進諸国の多くが輸入化石燃料に依存して現代文明を謳歌していることが判ります。特に、一次エネルギー自給率の余りにも小さい日本を含めて、先進諸国の多くが、経済成長のエネルギー源を輸入化石燃料に依存しなければならない状況が続くことが、今後の世界経済の動向を大きく左右することになります。

図 1 各国の一次エネルギー自給率の値(IEAデータ(エネ研データ(文献2 )に記載)をもとに作成)

(補遺); 「改訂一次エネルギー自給率」の値の計算方法
米国の場合を例にとって、IEAデータ(エネ研データ(文献2 )に記載)から「改訂一次エネルギー自給率」の計算に必要なデータを摘録して表A1に示しました。

表 A 1 米国における「改訂一次エネルギー自給率」の値の計算に必要なデータ
(IEA データ(エネ研データ(文献 2 )に記載)から摘録)

「一次エネルギー消費」;

 

「世界の電源構成(2014年、発電量ベース)、同(2014年、投入ベース)」;

注; *1;IEAデータで、一次エネルギー消費 (石炭) などと与えられている値、 *2 ;一次エネルギー消費(可燃再生・廃棄物)とある。 *3;IEAデータで「一次エネルギー自給率」として与えられている値、*4;IEAデータの一次エネルギー消費とある値をそのまま用いました。一次エネルギー(石炭)等の合計と一致しない *5;エネルギー源種類別の発電量を一次エネルギー消費量に換算した値です。したがって、原子力や水力など、電力としてしか利用できないエネルギー源については、この値は、「一次エネルギー消費」として示した値と一致すべきであるが、多少の違いが見られます。

表A1 の「一次エネルギー消費」のデータから、化石燃料以外のエネルギー源は国産とみなすと、
(化石燃料以外の国産の一次エネルギー消費量)
= ( 216(原子力)+22.5(水力)+105(可燃再生・廃棄物)) Mtoe = 343.5 Mtoe
となりますから、国産の一次エネルギー消費量の収支は次式で与えられます。
(国産の化石燃量一次エネルギー消費X )+343.5 Mtoe(化石燃料以外の国産)
=2,216 Mtoe(一次エネルギー消費合計)×0.908(一次エネルギー自給率)
したがって、
(国産の化石燃料一次エネルギー消費 X )
=(2,216×0.908)Mtoe – 343.5 Mtoe = 1668.6 Mtoe
と計算されます。すなわち
(一次エネルギー消費化石燃料)= ( 432(石炭)+782(石油)+624(天然ガ))Mtoe
= 1,838 Mtoe
のなかの1,668.6 / 1,838 = 0.908 = 90.8 % が国産で賄われていることになります。
同じIEAデータとして与えられている「世界の電源構成のデータ」から、化石燃料の種類別の電力の「単位発電量当たりの一次エネルギー消費換算係数」の値を求めてみると、
Mtoe/TWhの単位で、石炭 0.231、石油 0.214、天然ガス0.178
と化石燃料種類別に違いがありますが、化石燃料全体で 0.210 Mtoe/TWh となります。
一方、表 A 1の「世界の電源構成データ」から、原子力について、単位発電量当たりの一次エネルギー換算係数の値は ( 214 Mtoe)/ (831 TWh ) = 0.257 Mtoe/TWhと計算され、また、この同じ単位Mtoe/TWhで、水力は、0.089、地熱・風力他は0.115、バイオマス・廃棄物は0.263 と求められます。
本文中でも述べたように、化石燃料以外の電力が化石燃料代替として用いられている現状では、これらの原子力などの化石燃料以外の国産電力について、それらの利用での効用が、化石燃料資源量として評価されるとした「改訂一次エネルギー消費量」に換算すると、例えば 原子力の「一次エネルギー消費量」として与えられている216 Mtoeの化石燃料資源量換算の「改訂一次エネルギー消費量」の値は、( 216 Mtoe )×(0.210 / 0.257)=176 Mtoeとなります。
同様の改訂の計算を水力他の電力について行うと、
(化石燃料以外の国産の電力の一次エネルギー消費量)
= (176(原子力)+ 53.1(水力)+44.7(地熱・風力他)+ 17.2 (バイオマス・廃棄物))Mtoe =291.5 Mtoe
となります。
また、表A 1の「一次エネルギー消費データ」と「電源構成データ」から、
(電力以外の一次エネルギー消費量)
= (105(可燃再生・廃棄物)- 24.5(地熱・風力他)-21.5(バイオマス・廃棄物))Mtoe
= 59 Mtoe
となりますから、
(国産の化石燃料以外の一次エネルギー消費)
= ( 291.5 (化石燃料以外電力)+59(化石燃料以外電力以外))Mtoe =350.5 Mtoe、
と与えられ、
(国産の一次エネルギー消費合計)
=(1668.6(化石燃料)+350.5(化石燃料以外))Mtoe = 2019.1 Mtoe
となります。これに対し、化石燃料の一次エネルギー消費の値は、
(一次エネルギー消費合計)= ( 1,838(化石燃料)+ 350.5(化石燃料以外)) Mtoe
= 2,188 Mtoe
となり、
 (一次エネルギー自給率)
=(国産の一次エネルギー消費:2,019.1.Mtoe )
/ (一次エネルギー消費合計:/ 2,188 )= 0.923 = 92.3 %
と求められます。
これが本文中の表1に米国の「改訂一次エネルギー自給率」として示した値です。

 

③ 経済成長のエネルギー源の化石燃料の全量を輸入に依存しなければならない日本において、化石燃料(石油)の枯渇に伴う、その輸入価格の年次増加は、アベノミクスのさらなる成長戦略を崩壊させ、日本経済を破綻の淵に陥れます

図1を見て頂けば判るように、一次エネルギー自給率の値で、100 % を超えている国は極めて限られていると見ることができます。特に、EU 内の先進諸国は、一次エネルギーは自給とはかなり遠い状態にあると言えます。と言うことは。自由貿易を否定する一国主義を徹底することは、一部の国を除いて、それらの国の経済成長を維持できないことを示していると考えるべきです・
なかでも、最も大きな問題を抱えているのが、日本の余りにも低い「一次エネルギー自給率」の値です。これは、国産エネルギーとされている原子力を含まない現状での値ですが、原子力が用いられていた2010年の値でも19.9 % でした。
このエネルギー資源の貧困国の日本経済を、第2次大戦の敗戦後の苦境のなかから世界の奇跡とも言われた高度成長で、中国に追い抜かれるまで、世界第2の経済大国にまで押し上げたのは、その輸入価格が1バレル2 ドル以下、日本円に直すと、1 ℓ が4円程度で、水より安いと言われた安価に入手できた中東の原油でした。
この中東の原油に大きく依存する日本の原油輸入価格は、その年次変化を示した図2 に見られるように大きな変動を続けながらも確実に年次上昇を続けています。1973~1985年の原油価格の急騰は、中東における軍事的な紛争に起因する原油供給の不安定化がもたらした石油危機の影響によるものです。その後、一時、比較的安定していた価格が1995年頃から、ジワジワと上がり始めたのは、地球上の有限な化石燃料資源としての石油の枯渇が現実化してきた結果と考えることができます。

図 2 日本における原油の輸入CIF価格(円建て)の年次変化
(エネ研データ(文献2 )に記載のデータをもとに作成)

すなわち、原油生産の増加の継続によって、それを経済的に採掘できる地球上の資源量(確認可採埋蔵の値で表される)が減少して、その国際市場価格の上昇が始まりました。この資源枯渇への懸念につけこんで、金融市場の投機マネーが入り込んで起こったのが2005年頃から始まった原油価格の乱高下を伴う高騰でした。この投機マネーが手を引いた2014年の後半の暴落後の原油価格は、ほぼ、1995年頃からのゆっくりした年次上昇の曲線上にあると見て良いと私どもは考えています(文献1参照)。
経済成長のエネルギー源の主役を担ってきた石油について、そのほぼ全量を輸入に依存しなければならない日本にとって、この図2に示す輸入価格の年次上昇は、余りにも厳しい現実であると言わざるを得ません。すなわち、現状の輸入原油価格の下で、経済成長の終焉の結果としてもたらされたデフレを克服するためとして、物価の2 % アップを目標とした経済のさらなる成長を財政出動に求めるアベノミクスの経済政策が、現在、すでに、世界一とされる財政赤字を積み増すことで、日本経済を破綻の淵に追い込むことになることは間違いありません。

 

④ 中東の石油に依存しないで、自国産の石油で経済成長を継続できる国は、極めて限られています。すなわち、石油については、一国主義は通用しません。全ての国が協力して、残された資源量を大事に分け合ってを使うことが、国際的な貧富の格差を解消し、世界平和のなかで人類が生き延びる道です

この日本に較べれば一次エネルギー自給率の高い値を持つ先進諸国においても、これらの国が、一国主義を貫き、自国のエネルギー資源としての化石燃料(石油 )に依存して経済成長を続けて行けるかどうかを調べてみるために、この石油について、それぞれの国の確認可採埋蔵量Rの値を、それぞれの国の生産量 Pの値で割って求められる各国別の可採年数 R/Pの値と、同じ可採埋蔵量 Rの値を、IEAデータに与えられている各国別の一次エネルギー消費量(石油)の値Pcで割って求められる「自給可採年数 R/Pc(私どもによる命名)」の値を求めてみました。
具体的な計算方法を米国の場合で示すと、BP社のデータ(エネ研データ(文献2 )に記載)から、2014年末の米国の確認可採埋蔵量の値は、R = 7.7 十億kℓ = 5.9 十億トン と与えられています。同じBP社のデータから原油の生産量は、P = 11,644 千b/d (×58.03 kℓ/(b/d) = 676 百万kℓ と与えられますから 可採年数 R/P = 11.4 ( = 7.7 / 0.676 ) 年となります。これに対して、米国の石油の消費量は、IEA データ(エネ研データ(文献 2 )に記載)から、Pc = 782 百万トン と与えられますから、自給可採年数の値はR/Pc = 7.5 ( = 5.9 / 0.782 ) 年と計算されます。
同様の計算を、世界の各国について行った結果を表 2 に示しました。この表2 で、国別とは違い、世界では、石油の生産量Pと消費量Pcは同じ値になるはずですから、世界のR/PとR/Pcの値は一致すべきです。両者に多少の違いが見られるのは上記したように、PとPcとの出典が違っているためと考えられます。したがって、国別のR/Pcの計算では、世界のR/PとR/Pcの値が一致するように、各国のIEAのPcの値を1.065 ( = 55.9 / 52.5 ) 倍した値を用いで補正してあります。すなわち、上記の米国の場合では、R/Pc = 7.5 / 1.065 = 7.1としました。

表2 各国の化石燃料(石油)の可採年数R/Pと自給可採年数R/Pc、2014年、単位 年
(エネ研データ(文献 2 )に記載の BP社データ(確認可採埋蔵量 R、生産量P )およびIEA データ(一次エネルギ消費 Pc )をもとに計算しました)

この表2のデータで、各国別のR/PとR/Pc の値の違いについて考えて見ます。先ず、世界で、R/Pc > R/P の国、すなわち、自国で消費する以上の量を生産している石油の輸出国および地域は、カナダ、ロシア、中東、アフリカです。しかし、これらの国および地域の2014年の生産量から、それぞれの国および地域の消費量を差し引いた純輸出量の値は、単位百万トンで、中東 1,162、ロシア419、アフリカ 257 カナダ 128 と計算されるので、将来とも世界各国に石油を供給する主要な役割を担っているのは、現在、世界の生産量のなかで 32 %を占めている中東のみと考えてよいでしょう。
さらに、この表2で注意すべき点は、シェールオイルの開発で、この石油が自給できるようになったとされる米国においても、現在の生産量を続けたときの可採年数は11.4 年、さらに、現在の消費量を続けた場合の自給可採年数は僅か 7.1年しかないことです。すなわち、米国でも、一国主義を貫いて、エネルギー資源についても自国産のみに頼ろうとする場合には、大幅な省エネ(脱石油)を実施しない限り、10年もたないうちに石油が自給できなくなります。なお、この表2には、先進国のなかで、日本、ドイツ、フランスが含まれていません。それは、これらの国では、BP社のデータに、石油の確認可採埋蔵量の値が記載されていないからです。これを、言い換えると、少なくとも石油については、自国さえよければよいとの各国の一国主義は通用しないと考えるべきです。すなわち、世界の全ての国が協力して、残された石油資源を分け合って大事に使う以外に、先進国と途上国の間の貧富の格差を縮小し、世界平和のなかで人類が生き延びる道が開けてこないことになります。

 

⑤ 資源量の枯渇が迫っている化石燃料(石油)に代わって、当面、文明社会の維持に使われなければならないのは、地球温暖化対策のために嫌われ者になっている化石燃料(石炭)です。全ての国が協力して世界の化石燃料消費量を現在の値以下に抑えれば、石炭を使ってもIPCCが主張する温暖化の脅威は起こりません。温暖化より怖いのは、経済力のある覇権国の一国主義の成長の継続のよる化石燃料消費の増加です。

いま、文明社会の経済成長を支えてきた化石燃料(石油)が枯渇に近づき、その価格が高騰して、世界中の貧富の格差が拡大していくなかで、この石油に代わって、当分、成長に遅れをとった途上国の成長を支えて行くのが、同じ化石燃料の石炭や天然ガスでなければなりません。それは、これらのエネルギー源のほうが、現在、地球温暖化対策のために、主として先進国で用いられている再エネよりは安価だからです。
したがって、この石炭と天然ガスについても、上記の石油の場合と同様、各国別の可採年数R/P および、自給可採年数 R/Pcの値を計算して、その結果を表3 に示しました。
先ず、石炭については、多くの国で、R/P とR/Pc の値に余り大きな差が無く、自給できている国が結構多いことが判ります。これが、いま、その単位発熱量当たりの国際市場価格が石油の1/3程度と小さい石炭が、各国で火力発電用の燃料として広く用いられている理由です。
問題はこの安価な石炭が、地球温暖化の原因となるCO2を大量に排出するとして、その使用に反対する声が大きいことです。しかし、世界の化石燃料の消費量を、今世紀いっぱい、現在(2012年)の値以下に抑えることができれば、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が主張するような厳しい温暖化は起こりません。具体的には、「各国の今世紀中の一人当たりの年間化石燃料消費量を現状の世界平均値以下に抑えるべきだとする私どもの提言案」を実行すればよいのです(文献1 参照)。一国主義をかかげるとともに、地球温暖化対策に背を向けているトランプ米大統領も、米国における発電用燃料として、表3に見られる自給可採年数261 年もある国産の石炭を使用すべきだと主張していますが、IPCCが主張するCO2に起因する温暖化が起こらなければ、このトランプ大統領の石炭利用の主張にも、一定の合理性が認められることになります。
なお、表3には日本の可採年数R/Pの値も265年と大きな値が与えられています。しかし、国内の需要を国産のみに依存する場合の自給可採年数R/Pcの値は僅か1.4年しかありませんから、石炭についても、需用のほぼ全量を輸入に頼らなければならない状態が続くことになります。
表3を見て、少し気になることがあります。それは、石炭を主なエネルギー源として急成長してきた中国の石炭のR/P およびR/Pcの値が、世界の値の1/3 程度しかないことです。世界第2の経済大国に成長して、いま、世界経済を支えている中国経済の成長にも、はっきりした陰りが見えてきています。
いずれにしろ、現状で、世界の可採年数が、石油に較べて約2倍もある石炭は、世界の一次エネルギー消費の35 % を占める電力の生産のための最も安価なエネルギー源として、上記した各国の省エネ目標の実行を条件とした上で、その発電コストより安価な再エネ電力が実用化されるようになるまでは、その使用が許されると考えるべきです。

表 3 各国の石炭、天然ガスの可採年数 R/P と自給可採年数R/Pc の値、2014 年、単位;年 ( エネ研データ(文献 2 )の BP社データ(確認可採埋蔵量 R、生産量P )およびIEA データ(一次エネルギ消費 Pc )をもとに計算しました)

石油代替のもう一つの化石燃料の天然ガスについても、国別のR/PとR/Pcの値を表3に示しました。一頃、シェールガスブームが騒がれた天然ガスですが、現状の世界の可採年数は石油とほぼ同じで、石炭の半分しかありません。また、その産地も石油の随伴ガスが主体のようで、地域的な制約が大きいようです。最近その試掘に成功した日本近海のメタンハイドレートは、その採掘コストが大きいとして、その確認可採埋蔵量の値がBP社のデータには記載されていません。したがって、天然ガスについても、日本では、今後も需要のほぼ全量を輸入に依存しなければならない状態が続くと考えられますが、それを液化して輸入しなければならない日本には、その利用に際しての大きな経済的なハンデイキャップがあります。ロシアからの輸入のパイプラインを建設するかどうかが、将来のエネルギー政策上の一つの重要な課題になるでしょう。

 

⑥ 世界が一国主義を脱却して、地球上に残された化石燃料を分け合って大事に使いながら、国産の自然エネルギーに依存する格差の無い平和な世界を創ることが、いま、人類に求められています。これができない時に真っ先に沈没するのが資源小国日本です。

現代文明社会の成長のエネルギー源を担ってきた化石燃料の枯渇が迫ってきています。この枯渇後のエネルギー源となるのは、国産の自然エネルギー(新エネルギーなどととよばれる国産再生可能エネルギー(再エネ))でなければなりません。世界の一国主義の台頭のなかで、この自然エネルギーを使って、平和な世界をつくる具体策とその問題点については稿を改めて述べます。

 

<引用文献>
1.久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉――科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する――電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月5日:https://kdp.amazon.co.jp/bookshelf?ref_=kdp_RP_PUB_savepub
2.日本エネルギー経済研究所 計量分析ユニット 編;EDMCエネルギー・経済統計要覧2016、2017, 省エネルギーセンター、2016年、2017年

 

 ABOUT THE AUTHER
久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

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