メタンハイドレートは資源ではない: その3)膨大なメタン回収エネルギー

資源3条件とは、1)農集されている、2)大量にある、3)経済的な位置にあるもの

資源とは、この3つの条件を満たすべきだが、社会では殆ど理解されておらず、専門家にすら誤解がある。

地学雑誌という専門誌(末尾参照)、2009年特集号にメタンハイドレートが総説されている。そしてメタンの「原始資源量」は日本近海に膨大と記されているが、この原始埋蔵量とは地下に存在するという程度の意味のようで、資源としての経済性とは無関係とみられる。

さらに、メタンハイドレート鉱床という表現もある。本来この言葉にはもう少し具体的な意味がある。金属鉱床において、品位が低いと幾何級数的に投入エネルギーが増大するが、それを意味する用語である。
資源は品位が大事、ただ量が多いでは駄目である、特にエネルギー源では、エネルギー収支比、EPRが極めて重要である。

通常の天然ガス田では、掘削すればガスは自噴するが、固体のメタンハイドレート層ではそうはならない。固体としての濃縮条件も大事であろう。それも満たさないから、井戸を掘って回収出来るものでもない。

だが、その性状は昔からある程度はわかっていた。1930年代ころ、天然ガスパイプラインを塞ぐ邪魔者として知られていた。海洋地質学的には国際深海底ボーリングで、コアも採取されていた。しかし一方において掘削時の暴発も大いに警戒されたものである。 アメリカのバミューダ沖は魔の三角地帯、海底地すべりに伴うメタンの暴発が船、航空機に災害を起こす地帯として大いに恐れられた。

一般的な海洋地質研究には、アメリカ東海岸、ウッズホール海洋研究所が有名である。私も訪問したことがあるが、フロリダ沖などでの総合的な研究成果は素晴らしかった。しかし彼らに、メタンハイドレートが資源という意識は殆ど無かった、と記憶している。

長年のメタンハイドレート研究プロジェクト、その経過と成果

メタンハイドレートの調査研究には音波探査、ボーリングが欠かせないが、近年は石油探査に使われる大規模な海洋地震反射法も用いられる。反射記録断面に強い反射波列として、メタンハイドレート層が表現されるからである。音響インピーダンスの顕著な変化のためで、ボーリングさらに具体的に調べるのである。コア採取で、メタンハイドレートはシャーペット状に観測、採取されるものである。 

日本では最初、エネルギー総合研究所に設置された委員会(委員長石井吉徳)で1990年ころから研究調査を始められた。その後、石油天然ガス・金属鉱物資源機構と関連する民間の探査、海洋掘削会社に引き継がれた。そして年100億円もの税が投入されるようになった。海トラフでは、ボーリングによって、メタンハイドレートが確認された。

そして2002年には、国際共同作業としてカナダのマッケンジー・デルタで永久凍土地帯の浅層を掘削、メタンハイドレート層に熱水注入してメタンガスが回収されている。

2008年に、同じく永久凍土1100mのメタンハイドレート層から、減圧法でメタンガスが連続回収された。これを受けて、2018年頃にはメタンハイドレート事業が商業化すると言われたが、その経済性は不明のままだった。

膨大な回収エネルギー、見積もられない収支比、EPR

かくして20年が経過した。だが上述のように経済性は不明のまま、エネルギー収支比、EPRも未評価、納得できる回収エネルギー分析もされていない。

カナダでは地下1000mのボーリング孔から80℃の温水を注入、メタンは遊離回収されたが、これはメタン生産に別エネルギーが使われたことになる。

減圧法も試みられた。しかしそれだけでは不十分とみられている。減圧法が主体だが、他の+αが必要とされている。例えば分解促進にメタノールの注入、そして分子置換に二酸化炭素の挿入も考えられる。それはメタンより二酸化炭素のほうが安定トラップされるからである。だが技術的には可能でも、エネルギーコストはさら増大しよう。

私が委員長を務めて、資源かどうか見極めようと述べてから、もう20年程が経過した。だが依然としてエネルギー収支比、EPRによる科学的な経済評価は何時のことか見当もつかない。その反面、楽観的な話ばかりがメディアに流される。既に利権構造化しているのであろうか、メタンハイドレート・ムラが出来上がったようだ。
もう止めにして欲しいものである、税を負担しつつ幻想を追う国民が哀れである。

 

以上が結論、その3)の終わり


参考:地質雑誌2009年特集号

「メタンハイドレート(Part I):産状,起源と環境インパクト」

http://www.jstage.jst.go.jp/article/jgeography/118/1/1/_pdf/-char/ja/ 

「メタンハイドレート(Part II):探査と資源ポテンシャル」 

http://www.jstage.jst.go.jp/browse/jgeography/118/5/_contents/-char/ja/ 

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