トランプ大統領訪日での晋三からのお土産、“日米同盟の強化”とは、 日本による米国製防衛装備品の購入と、米国産シェールガスの購入です

東京工業大学 名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 事務局長 平田 賢太郎

(要約)

① トランプ米大統領の訪日の目的とされた「日米同盟の強化」、それは、国民にとっての利益に相反するドナルドの盟友晋三からの私的な貢物です

② 採掘コストの高い米国のシェールガスを、輸入先の多様化を確保する「エネルギーの安全保障」のためとして、日本に輸入する必然性はどこを探しても見つかりません

③ シエール革命の夢が破れたいま、米国は、エネルギー資源大国とは言えません。日米同盟の強化の一環としてのエネルギー安全保障のための米国からの化石燃料の輸入契約は、日本のエネルギー供給の安全を保障するものではありません

④ 中東石油の安定供給の確保のためには、日本が誇る憲法九条の戦争放棄を訴え続けることで、世界平和の確立を願う以外に方法がありません

⑤「日米同盟の強化」とは、「トランプと晋三の盟友関係の強化」でありません。軍事力の強化で世界平和を維持しようとするトランプ米大統領にもの申す勇気を持つことが、日本を守り、人類を存亡の危機から救う日本国首相の務めでなければなりません

 

(解説本文)

① トランプ米大統領の訪日の目的とされた「日米同盟の強化」、それは、国民にとっての利益に相反するドナルドの盟友晋三からの私的な貢物です

ドナルド・トランプ大統領の今回の10日間の東アジア歴訪のなかで、10月5日から2泊3日の日本滞在は、大統領選に勝利したとたんにドナルドのもとに駆け寄って、個人的な盟友関係をつくりあげた晋三が求めるゴルフと5度の会食による信頼関係の構築のための「日米軍事同盟の強化」でした。

北朝鮮のミサイルの脅威を煽ることで、今後4年間の首相の座を安泰にすることに成功した晋三首相の要望で、北朝鮮拉致家族との会談にも応じたドナルド米大統領の訪日の真の目的は、日米「完全一致」を演出する安倍晋三首相に、対日貿易赤字の解消のための多額の米国製防衛装備品を売りつけることでした。この対日貿易赤字解消のための売り込み品のなかには、米国産の天然ガスも含まれていました。すなわち、今回のトランプ大統領の訪中を機会に、エネルギー分野の協力を強化するこの日米首脳間の覚書の署名も行われました。

実は、この米国産天然ガスの輸入は、日本の「エネルギー基本計画2016年4月」のなかに、国際的なエネルギー供給構造の変化に対応するための北米からの液化天然ガス(LNG)の調達として記載されていました。すなわち、シェール革命が言われるなかで、世界の安定なエネルギー資源としてのシエールオイルやシエールガスへの過大な期待が反映されたもので、この米国産天然ガスの輸入は、米国の売り込みと言うよりは、エネルギー政策に混迷をもたらしている日本側の要請によるものです。

 

② 採掘コストの高い米国のシェールガスを、輸入先の多様化を確保する「エネルギーの安全保障」のためとして、日本に輸入する必然性はどこを探しても見つかりません

日本への輸入の対象とされている米国の天然ガスについて、日本エネルギー経済研究所編のEDMCエネルギー・経済統計要覧(以下、エネ研データ(文献 1 )と略記)に記載のBP(British Petroleum)社のデータの生産量の値と、また同じエネ研データに記載のIEA(国際エネルギー機関)データの消費量の値の最近(2006 ~2015年)の年次変化を比較して図1に示しました。この図1に見られるように、米国における天然ガスの生産量と消費量の年次増加は、量的には、ほぼ均衡がとれていると見てよさそうです。

すなわち、大きな期待を集めて開発が進められたシェールガスですが、ごく最近になって、生産量が、国内の消費量を多少上回るようになって、その余剰分がヨーロッパに輸出されるようになったと報じられていました。しかし、ヨーロッパへの天然ガスの輸出のためには液化が必要で、ロシアからパイプで輸送される天然ガスとは、競争になりません。そこで、この液化天然ガス(LNG)の有望な市場として、日本が選ばれるようになったと考えることができます。

注; 生産量はBP社データ、消費量はIEAデータ、BP社のm3 で与えられた生産量の値を、0.919 石油換算トン/m3 -天然ガス (2005 ~ 2010年)、0.901 石油換算トン/m3 –天然ガス (2011 ~ 2014年)として石油換算トンに変換しました。

1 米国における最近の天然ガスの生産量と消費量の年次変化

 (エネ研データ(文献1 )に記載のBP社データとIEAデータをもとに作成)

 

自国の資源量に乏しい島国の日本は、天然ガスの需要のほぼ全量を、輸入先国での液化の費用を加えて液化天然ガス(LNG)として輸入しています。エネ研データ(文献1 )で見ると、実は、日本にとっての最初のLNGの輸入国が米国だったようです。1969年度から百万トン前後の輸入量を維持してきました。しかし、1970年代以降、他国からのLNGの輸入量が増加する中で、輸入量合計(輸入計)に対する米国からの輸入量比率は、図2に示すように、急速に減少して、2014 年の輸入量合計に対する比率は、僅か0.29 % にまで落ち込んでいます。この米国からのLNGの輸入は、日本にとっては、一度つくった液化設備の寿命に関係するLNGの売買契約上の理由からの購入ではないかと考えられます。

2 日本におけるLNG輸入量合計(輸入計)のなかの米国からの比率の年次変化

(エネ研データ(文献1 )をもとに作成)

 

エネ研データ(文献1 )によれば、LNGの場合、2014年度の日本にとってのその輸入先国は、輸入量の多い順に(括弧内に輸入計に対する比率を示す)、オーストラリア(22.0 %)、カタール(18.5 %)、マレーシア(17.2 %)、ロシア(9.6%)、インドネシア(6.4 %)、UAE(5.0 %)等20ヶ国以上にも及び、中東への依存度が82.7 % と高い石油とは異なり、その輸入先の多様化が十分確保されています。

したがって、石油生産の随伴ガスなどに較べて、はるかに生産コストの高い米国のシェールガスに、さらに液化の費用を加えたLNGを、エネルギーの安全保障のためとして、今後、その輸入量を増加させる必然性はどこを探しても見つからないと考えるべきです。

 

③ シエール革命の夢が破れたいま、米国は、エネルギー資源大国とは言えません。日米同盟の強化の一環としてのエネルギー安全保障のための米国からの化石燃料の輸入契約は、日本のエネルギー供給の安全を保障するものではありません

トランプ大統領の来日の目的とされる「日米同盟の強化」が言われるなかで、エネルギーの安全保障のために、日本が輸入の対象としている米国産の化石燃料資源量の供給可能量を検討してみます。

化石燃料の種類別に、日本の輸入量合計に対する米国からの輸入量の比率をエネ研データ(文献1 )で調べてみると、2014年度の値として、先ず、石炭では、一般炭で 1.10 %、原料炭で6.03 %と計算されます。

次いで、石油については、米国は、つい最近までは、図3に示すように、国内消費量が生産量を大幅に上回り、輸出余力はありませんでしたが、水平掘削技術の開発で、シェールオイルが生産されるようになって、米国は、石油の輸出国に転じました。

注; 生産量 b/d(日量バレル)の値を72.96 石油トン/年として換算しました。

図3 米国における石油の生産量と消費量の年次変化 (エネ研データ(文献1 )に記載のBP社データ(生産量)およびIEAデータ(消費量)を用いて作成)

 

しかし、同じエネ研データ(文献1 )に記載されているBP社による米国における石油の確認可採埋蔵量(現状で経済的に採掘可能な資源量)の値Rを現在の生産量Pで割った可採年数R/Pの値は、2015年末の値で11.9 年と、世界平均の54.1年を大きく下回っています。もちろん、新たに生産されるようになったシェールオイルの可採埋蔵量が、今後も増加を続ければ話は別ですが、シェールオイルの1本の掘削井戸当たりの掘削可能石油量が予想よりはるかに小さいために、この確認可採埋蔵量の増加、したがって、可採年数の値の増加が望めないことが判明しています(私どもの近刊(文献2 )参照)。

また、エネ研データ(文献1 )には、現在、石油についての日本の米国からの輸入量の記載はありませんが、トランプ大統領の就任直後、朝日新聞(2017/2/24)に、私どもの目を疑う次のような記事がありました。

「政府 米国原油に熱視線 トランプ氏パイプライン建設許可受け」の表題で、トランプ政権の発足で、政府は、米国のエネルギー事業へ本格的な関与を検討するとして、「調達 脱中東へ戦略」の副題で、23日(2027年2月)まで開かれている外務省の「エネルギー・鉱物資源に関する在外公館戦略会議」の内容が報道されていました。

技術革新による劇的な供給増を可能にした「シェール革命」で増産された米国の原油が、トランプ氏の大統領就任で、原油輸入量の8割を中東に依存する日本の原油調達先を広げる好機が到来したとするものです。その上で、この中東依存からの脱却がエネルギーの安全保障に貢献し、米国の原油パイプラインの建設や原油の輸入量拡大がエネルギー分野における「日米同盟の強化」に繋がるとしていました。

しかし、上記したような米国における石油の生産事業の実態を知るならば、外務省官僚によるこのようなエネルギー関連の外交戦略は全くの的外れの構想に過ぎないことが容易に判るはずです。まさに、この国の混迷するエネルギー政策の典型例と言ってよいと考えます。

さらに、先(②)に述べた天然ガスについても、現在(2015年)の世界の可採年数52.8年に対して、米国の可採年数は13.6年しかありません。また、上記したように、日本の輸入量合計に対する米国からの比率は0.3% 程度と無視できる量でしかありません。

以上から判るように、日本のエネルギー安全保障にとって、米国からの輸入化石燃料の寄与は、現状では殆ど無視できるし、将来も有意の貢献は、到底、考えられません。したがって、日本のエネルギー安全保障のために日米同盟の強化が必要だとすれば、それは、今回のトランプ大統領の訪日の目的とは直接関係が無いかもしれませんが、現在(2014年度)、輸入量の82.7 % を占める中東石油の供給の安定化を確保するための日米間の軍事同盟の貢献ではないかと考えられます。

 

④ 中東石油の安定供給の確保のためには、日本が誇る憲法九条の戦争放棄を訴え続けることで、世界平和の確立を願う以外に方法がありません

第二次大戦後の日本経済の高度成長を支えてきた中東の石油は、石油危機によって、その国際市場価格を一挙に10 倍以上も高騰させ、さらにその枯渇への懸念から、乱高下はあるものの確実に年次上昇を続けています。いまでも、そして、その代替の再生可能エネルギー(再エネ)が受容可能な価格で入手できるようになるまでの将来も、日本経済にとっての生活と産業用に重要な役割を担い続けるのが中東の石油です。

この中東石油の供給の一時中断の恐怖は、1970年代の中東地域での軍事紛争に端を発した石油危機のときに嫌と言うほど思い知らされました。この石油危機時の教訓から、石油の備蓄が行われるようになりましたが、これは、あくまでも、中東での平和の回復による石油の供給の安定化までの一時しのぎの対応に過ぎません。

したがって、石油危機後も、アルカイダに始まり、イラク戦争を経て、イスラム国(IS)に至り、さらにシリアの内戦など、中東での軍事紛争が絶えないなかで、現在(2014年)、世界の石油の生産量の32.2 % を占める中東の石油の安定供給の保障は、世界の火薬庫とも言われてきたこの中東地域の平和の確立以外にないことを、私どもは、厳しく認識する必要があります。

では、何故、このような中東の平和を乱す過激派勢力が現れたのかを考えてみますと、それは、イスラム教徒にとって、アラーの神の恵みと言われる豊かな石油の利権が、産油国における一部の権力者と、その権力者に石油開発技術を提供してきたメジャーを通して先進諸国に独占されるようになり、その恩恵に預かれない人々にとっての貧富の格差への不満が、宗教と結びついて、国際政治構造の改革を求める過激なテロ活動へと発展して行ったと考えることができるでしょう。

現代文明社会の矛盾を批判して国際的なテロ活動を始めたアルカイダを殲滅するとした米国ブッシュ政権によるイラク進攻は、フセイン政権を倒しましたが、代わってできたイラク新政権に反対する人々が、世界中のイスラム過激派の義勇兵を集めて、イスラム国(IS)の建国を宣言するとともに、イラクの隣国シリアの内乱にも介入して中東地域の軍事紛争を拡大させました。結果として生存の地を追われた人々による深刻な難民問題が発生しました。それが、英国のEU離脱に代表されるポピュリズムの台頭から、米国のトランプ大統領の誕生まで生み出したのです。

 

⑤「日米同盟の強化」とは、「トランプと晋三の盟友関係の強化」でありません。軍事力の強化で世界平和を維持しようとするトランプ米大統領にもの申す勇気を持つことが、日本を守り、人類を存亡の危機から救う日本国首相の務めでなければなりません

つい最近、ISは、米国が主導する有志連合諸国による空爆とクルド人の武力攻撃により、壊滅したとされますが、ISによる国際テロ戦争は中東以外の世界各国に広がっています。かつては、宗教問題に最も寛容であるとされる上に、第2次大戦での敗戦の苦い経験から憲法九条による戦争放棄を国是としてきた日本は、イスラム教を国是とする中東諸国との友好関係を保ってきましたが、日米同盟に基づくイラク戦争への自衛隊の派遣で状況は変わりました。さらに、安倍政権は、歴代内閣が違憲としてきた集団的自衛権に対する憲法解釈を変更して、多数の国民の反対を押し切って成立させた安保法制の下で、米国の軍事行動の後方支援のための自衛隊の海外派遣を合法化したことで、中東の紛争に対する中立国としての立場をも放棄してしまいました。さらに、中東の異分子国家、イスラエルを支持するドナルド・トランプ米大統領との歴史上にかつてない親密な関係を創った晋三は、中東の全てのイスラム国を敵に回して、日本のエネルギーの安全保障に大きな危機をもたらしかねないことを判っているのでしょうか?世界平和を守り、人類を存亡の危機から救うために、ドナルド・トランプ米大統領に言うべきことを言う勇気を持つことこそが安倍晋三首相の務めでなければなりません。

 

<引用文献>

1.日本エネルギー経済研究所 計量分析ユニット 編;EDMCエネルギー・経済統計要覧2016, 省エネルギーセンター、2016年

2.久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉――科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する――、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月

 

 

ABOUT THE AUTHER
久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

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