地球温暖化より怖いのは化石燃料の枯渇です; 世界が協力して、今世紀いっぱいの平均年間化石燃料消費量を、現在の値以下に止めれば、IPCCが訴えるような地球温暖化の脅威は起こりません。地球温暖化対策としての「エコ(=CO2の排出削減)」のためでなく、やがて枯渇する化石燃料の代替としての再エネ電力の利用が求められます

東京工業大学名誉教授 久保田 宏
日本技術士会中部本部・事務局長 平田 賢太郎

 

(要約)

 ① いま、「エコ(地球温暖化対策としての低炭素化(CO2の排出削減))」が、国際的な合意となって、「パリ協定」の実行として、世界中で進められています。しかし、地球温暖化が人為的なCO2によって起こるとするのは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)に所属する気象学者がつくり出した科学の仮説です。これに対して、化石燃料の年間消費量を、今世紀いっぱい、現在(2012年)の値に止めることができれば、CO2の排出総量は、IPCCが主張するような温暖化の脅威は起こりません。いま、地球温暖化より怖いのは、化石燃料が枯渇し、その国際市場価格の高騰による配分の不均衡がもたらす貧富の格差による世界平和の侵害です

② 地球温暖化対策としての「エコ(=CO2の排出削減)」を実行するためのコストを最小にする方法は、いずれ、その資源量が枯渇に近づき、その国際市場価格が高騰する化石燃料の消費を節減することです。市販電気料金の値上げで国民に経済的な負担を強いる「再生可能エネルギー固定価格買取(FIT)制度」の適用がなければ成りたたない「エコ(=CO2排出削減)」目的の再エネ電力の生産事業は、この化石燃料消費の節減が要求される社会では不要というより、資本主義社会における、金融投資の対象となる収益事業(ビジネス)にはなりません

③「エコ(=CO2排出削減)」の要請で国民に経済的な負担をかけている「FIT制度」の適用無しでの、成長の抑制を前提とした化石燃料消費の節減こそが、いま、求められます。やがて、化石燃料が枯渇し、その国際市場価格が上昇した将来、この化石燃料よりも安価に利用できるようになった再エネ電力の種類を選んで利用することが、現在、経済成長のエネルギー源の化石燃料のほぼ全量を輸入に依存している日本経済の生き残る道です

④ 「FIT制度」を利用したメガソーラ事業に中国の資本が入ってきました。輸入化石燃料の代替の再エネの生産に海外資本の導入はあり得ません。化石燃料の枯渇後に日本経済が生き残るためには、経済成長の抑制を前提とした国産の再エネ電力の利用こそが求められなければなりません。実は、世界中の全ての国が、このエネルギーの100 % 自給を目指すことが、エネルギー資源の奪い合いの無い平和な持続可能な世界を創る道です

やがて、現在の経済成長を支えている化石燃料が枯渇して、再エネのみに依存しなければならない社会がやってきます。それは、現在に較べて、大幅に成長が抑制される社会です。しかし、一方で、世界の全ての国が、先進国も途上国も、自国産の再エネのみに依存して自国の経済を支えなければならない社会は、エネルギー資源を奪い合う競争が無い、したがって、現状の大きな貧富の格差が解消できる、人類が理想とする平和が期待される社会だと言えます。現状の争いの絶えない世界か、如何にして、この平和な世界へとソフトランデイングするか、その具体的な方法が「FIT制度」の適用なしの、化石燃料代替の再エネ電力の利用です

 

(解説本文)

 ① いま、「エコ(地球温暖化対策としての低炭素化(CO2の排出削減))」が、国際的な合意となって、「パリ協定」の実行として、世界中で進められています。しかし、地球温暖化が人為的なCO2によって起こるとするのは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)に所属する気象学者がつくり出した科学の仮説です。これに対して、化石燃料の年間消費量を、今世紀いっぱい、現在(2012年)の値に止めることができれば、CO2の排出総量は、IPCCが主張するような温暖化の脅威は起こりません。いま、地球温暖化より怖いのは、化石燃料が枯渇し、その国際市場価格の高騰による配分の不均衡がもたらす貧富の格差による世界平和の侵害です

いま、テレビでも、新聞でも、地球温暖化の脅威が迫っていて、それを防ぐためには、何としても、「エコ」すなわち、地球温暖化対策としての低炭素化(CO2の排出削減)を実行しなければならないとしています。しかも、これが、科学的に疑うことのできない真理だとさえ言われています。

これは、国内だけの問題ではありません。いま、このCO2の排出削減(低炭素化)は、世界の問題として、国際的な合意を得て地球上の全ての国を巻き込んで進められています。それが、昨年(2016年)11月4日、温室効果ガス(CO2)の排出大国の中国と米国の批准により発効した「パリ協定」です。

しかし、この地球温暖化、すなわち地球気温の上昇が人為的なCO2の排出のせいだとする科学的な根拠となっているのは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)に所属する世界中の多数の気象学者がつくった気候変動のシミュレーションモデル計算の結果です。95 % の信頼性がある科学の真理だと一般の人に認めさせていますが、本当に温暖化が、また、それによる脅威が起こるかどうかは、これからの地球気温の実測データを、モデル計算結果と照合して、その一致が認められたときに初めて科学の真理として実証されるのです。しかし、それでは、間に合わないとして、CO2の排出削減を実行させようとしているのが「パリ協定」です。

これに対して、確実に、地球上のCO2の排出を低減させる方法として提言しているのが、私どもの近刊(文献 1 )が主張する化石燃料消費の節減です。日本エネルギー経済研究所編のEDMCエネルギー経済統計要覧(以下、エネ研データ(文献2 )と略記)に記載のIEA(世界エネルギー機関)のデータに記載されている現状(2012年)の世界の化石燃料の消費によるCO2の排出量321億トンを、今世紀いっぱいの年間平均の値とすることができたとして、今世紀末までの88 ( = 2100 – 2012 ) 年間の地球上のCO2の排出総量は2.82 (=0.0321×88) 兆トン-CO2となります。この値であれば、IPCCの第5次調査報告書(2013 ~ 2014年)に記述されている地球温暖化のシミュレーションモデルから推算される今世紀末の地球気温の上昇幅は1.6℃ 程度に止まりますから、IPCCが主張する生態系への不可逆的なダメージを与えるような温暖化の脅威は起こらず、人類の歴史のなかで、IPCCが目標としている気温上昇幅の上限の2℃以内に止まると考えることができます。

一方、現在の科学技術の力で採掘可能な化石燃料種類別の確認可採埋蔵量Rの値をその年のそれぞれの生産量Pで割って得られる可採年数R/Pの値は、石油で50.7年、天然ガスで52.8年、石炭で114年(エネ研データ(文献2 )に記載のBP(British Petroleum)社のデータから、2015年末の値)ですから、人類が現状の化石燃料の消費を継続すれば、その資源量は、今世紀中に確実に枯渇を迎えることになると考えるべきです。

したがって、私どもは、温暖化より怖いのは、世界の経済成長を支えてきたエネルギー源である化石燃料の枯渇だと考えています。ここで、私どもの言う化石燃料の枯渇とは、現在の技術力で採掘可能な資源量が少なくなる結果、その国際市場価格が高騰し、それを使えない人や国がでてきて、貧富の格差が拡大することです。すでに、この貧富の格差の拡大による不満が宗教と結びついて世界の平和を脅かしています。それが、アルカイダに始まり、イスラム国(IS)に至る、国際テロ戦争です。これがいま、現代社会における最も貴重なエネルギー源である石油の生産地中東を中心に起こっています。これは、世界平和にとっての大きな脅威であるだけでなく、人類の存亡にとっての脅威になっていると言ってもよいでしょう。

 

② 地球温暖化対策としての「エコ(=CO2の排出削減)」を実行するためのコストを最小にする方法は、いずれ、その資源量が枯渇に近づき、その国際市場価格が高騰する化石燃料の消費を節減することです。市販電気料金の値上げで国民に経済的な負担を強いる「再生可能エネルギー固定価格買取(FIT)制度」の適用がなければ成りたたない「エコ(=CO2排出削減)」目的の再エネ電力の生産事業は、この化石燃料消費の節減が要求される社会では不要というより、資本主義社会における、金融投資の対象となる収益事業(ビジネス)にはなりません

文明の進化によってもたらされた自然環境破壊(かつて公害とよばれた)によって、国民が被害を受けるとしたら、この被害をお金に換算した額が、加害者と認定された者が負担して、被害の復旧、あるいは、それによる損害の賠償として支払われなければなりません。さらに進んで、このような環境破壊が生じないような防護対策を講じるための費用についても加害者が負担することになります。例えば、化石燃料を用いた火力発電の燃焼廃ガスによる大気汚染を防止するための費用は、その生産電力を利用する消費者(国民) が、加害者になるとみなされ、電力料金の値上げの形で、排ガス処理対策の費用を負担しています。

すなわち、国民にとっては、この電気料金の値上げ分だけ、経済的な負担(マイナス)を受けることになります。この国民にとっての経済的なマイナス(negative economy)を最小限に止めるためにも、この廃ガス処理対策(環境保全対策)事業では、その目的の達成のためのコストが最小になるような技術を開発・利用するとともに、事業収益を適正値に止めた「公益事業」として進められなければなりません。

この原則は、地球温暖化対策としての「エコ(=CO2排出削減)」を目的として行われている再エネ電力の生産事業に対しても適用されなければなりません。この場合の地球温暖化対策としてのCO2排出削減に、現状で、再エネ電力を用いるよりも安価な方法があれば、それを用いればよいのです。実は、それがあるのです。それは、上記(①)した、私どもが提言している「化石燃料消費を節減する方法」です。これも、上記(①)したように、この方法の適用では、確実に、地球温暖化対策としての「エコ(=CO2排出削減)」が実行できるうえに、電気料金の値上げによる国民の経済的な負担を必要としないのです。すなわち、この「化石燃料消費の節減」が実行されれば、いま、電気料金の値上げで国民に経済的な負担をかける「再生可能エネルギー固定価格買取(FIT)制度」の適用が無ければ成り立たない再エネ電力の利用・拡大は不要です。

ところが、たまたま、本稿の執筆の最中(2017年12月17日)、NHKスペシャル“激変する脱炭素革命の衝撃”として、「パリ協定」によって、世界のCO2排出削減のための再エネ電力の利用・拡大の事業が大きなビジネスチャンスとして、資本投資の対象となっているのに、日本がこの流れに取り残されようとしていると報じられました。しかし、そんなこと、心配する必要はありません。上記したように、「FIT制度」のような、行政による支援策がなければ、「エコ(=CO2の排出削減)」のための再エネ電力生産事業が収益事業として成り立つことはないのです。最初に「FIT制度」を設けたEUにおいて、大分前から、その弊害が明らかになって、電力の買取り価格が低下し、再エネ電力生産事業の収益が減少し、結果として、特に買取価格が高かった太陽光発電(メガソーラ)で、その利用の伸びが停滞していると聞いています。EUより約10年遅れてこのFIT制度を始めた日本でも、すでに同様のことが起こっているようです。

 

③「エコ(=CO2排出削減)」の要請で国民に経済的な負担をかけている「FIT制度」の適用無しでの、成長の抑制を前提とした化石燃料消費の節減こそが、いま、求められます。やがて、化石燃料が枯渇し、その国際市場価格が上昇した将来、この化石燃料よりも安価に利用できるようになった再エネ電力の種類を選んで利用することが、現在、経済成長のエネルギー源の化石燃料のほぼ全量を輸入に依存している日本経済の生き残る道です

太陽光や風力、さらには古くから用いられてきた水力などの自然エネルギーを用いる再エネ電力の生産事業では、エネルギー源の経費(コスト)はタダと考えてよいから、この再エネ電力生産事業に必要なコストは、この自然エネルギーを、生活や産業用に有効に使える電力に変えるための設備の製造コストに、その設備を維持するためのコストを加えた金額となります。

ところで、この際、注意しなければならない大事なことがあります。それは、この再エネ電力設備には一定の使用期間(寿命)があることです。本来は、このエネルギー生産設備の使用期間は、安定なエネルギー供給が確保できるように、すなわち、事故などによるエネルギー供給の中断が起こらないような法定の使用年数の決まりがあります。再エネ電力についても、FIT制度の導入時に政府が決めた値を法定使用年数として用いることにします。

この法定使用年数が経過した後にも、この再エネ電力の生産が安定に継続されるためには、この設備の更新のために必要な再投資の金額が、この事業において生産された再エネ電力の販売金額によって回収されなければなりません。これは、電力の生産コストはその生産設備の製造コストに支配される再エネ電力の生産に際して考慮しなければならない特別な事情と考えてよいと思います。また、設備製造コストに較べて、燃料ウランのコストが無視できる原発電力の場合も同様で、その分、原発電力の販売価格は高くなっているはずです。

私どもは、先に(文献1 )この再エネ電力の生産事業において、この生産設備の法定使用期間後の設備更新の再生産のコストを無視して、この再エネ事業がビジネスとして成立するための設備の製造コストを再エネ電力の「限界設備価格B 」とよんで、その値を計算する方法を提案しました。しかし、上記した、再エネ電力生産における特殊事情、すなわち、設備の再生産のコストを考慮した場合の「限界設備価格 Bo 」の値は、設備の更新(再生産)を考慮しなかった場合の「 B 」の値の1/2 として与えられるとした次式で求められるべきとします。

「限界設備価格 Bo 」=(1/2)×(単位発電設備容量当たり年間発電量P )

×(設備使用年数 Y )×(市販電力としての販売価格H )-「設備の維持費」 ( 1 )

ただし、

(単位発電設備容量当たり年間発電量P )

=(設備容量1 kW)×(年間時間 8,760 h )×(年間平均設備稼働率 y ) ( 2 )

( 1 )式において、(設備維持費)が「限界設備価格 B」に較べて小さいとして、これを無視すると、「限界設備価格Bo 」の値を大きく左右するのは、生産される再エネ電力の(市販電力としての販売価格)です。

上記(②)したように、化石燃料消費の節減を目的とした「FIT制度」の適用無しでの再エネ電力導入のための「限界設備価格Bo 」を求める際の、(市販電力としての販売価格 H )の値には、現用の化石燃料を用いる火力発電を主体とした(市販電力の生産コスト)の値が用いられることになります。すなわち、化石燃料資源が枯渇に近づいているいま、その国際市場価格は年次上昇するので、この上昇を考慮した市販電力の生産コストの推定値を用いた「限界設備価格Bo 」の値が推算されなければなりません。

また、蓄電設備を持たないために、市販電力としての販売価格が現用の火力発電等の出力変動の少ない電力の販売価格7.5円/kWhの1/2に抑えられるとした場合の事業用(家庭外)太陽光発電(メガソーラ)の市販電力としての販売価格を3.75(=7.5 / 2 )円/kWh としたときの「限界設備価格 Bo 」は、補遺A 1に試算例として記したように、2.96万円-kW設備 と計算されます。これに、下記(④)するように、この太陽光発電が国産のエネルギーを供給するからとして、その生産事業に国の補助金が支給できるとして試算した「国の補助金額 D 」= 8.9 万円/kW-設備(補遺A 2参照)を加えた「限界設備価格 Lo(=Bo + D )」の値は11.9 ( = 2.96 + 8.9 )万円/kW-設備となり、当時のメガソーラ用の(設備コスト(維持費を含む)T )= 52.8万円/kW-設備(表1 に記載)とは較べものにならない額です。そこで、政府は、「FIT制度」を適用して、(FITでの買取価格)=(市販電力としての販売価格H)を42円/kWhとすることで、上記した使用期間終了後の設備更新の資金を考慮しない「限界設備価格B 」の値(( 1 ) 式で計算されるBの値を2倍した値)を、66.3{=(2.96 ×2)×(42 / 3.75)}万円/kW-設備まで引き上げて、メガソーラ事業をビジネスとして成り立つようにしているのです。そのつけは、市販電力の値上げとして国民の経済負担になっています。したがって、他に、「設備コストT 」の値が「補助金付きの限界設備価格 Lo 」の値に較べて安価な再エネ電力生産方式があれば、現状で再エネ電力として(FITでの買取価格)の最も高いメガソーラの出番は無くなるはずです。

一方、陸上風力発電の場合の「限界設備価格Bo 」の値は 上記のメガソーラの(市販電力としての販売価格H )と同じ3.75円/kWhとして、9.41万円/kW-設備と計算されます(補遺A 1 )。これに国産としての再エネ電力に対する「国の補助金D 」=31.9.~ 29.5万円(補遺A 2 )を加えるとLo = 41.3 ~ 38.9 万円となります。FIT制度施行時の陸上風力発電の(設備価格)は36 ~ 125 万円/kW-設備とされていましたから、この「国の補助金 D 」を事業者に支給することで、火力発電用の化石燃料の輸入価格が高くなって行くなかで、火力発電よりも発電コストが安くなる立地条件にある陸上風力発電を選んで、不条理な「FIT制度」の適用無しで、順次、利用できることになります。

いま、「FIT制度」の対象になっている再エネ電力の種類別に、この「限界設備価格Bo 」の試算値と(設備コストT )の値を表 1 に示しました。ただし、これらの値は「FIT制度」の施行時(2012年度)での値です。

 

表 1 再エネ電力の利用でのエネルギー源種類別「限界設備価格」の試算結果

(私どもの近刊(文献 1 )に記載のデータを一部改訂)

注  *1 ; 再エネ電力の「年間平均設備稼働率 y」の値、環境省報告書(文献3 )のデータ からの推定値  *2 ; 設備使用年数、政府の決めたFIT制度の買取契約年数の値  *3 ;電力会社による火力発電での発電コストを 7.5 円/kWh としました。電力を需要端で販売できる太陽光(家庭)では、家庭用市販電力料金 24円/kWhをそれぞれ基準として、さらに、出力変動対策を電力会社が負担しなければならない太陽光や風力では、この基準値の半額3.75円/kWhを買取価格とた  *4 ;「国の補助金D 」の計算に必要な「有効再エネ利用比率i 」の略で、その計算法は、本稿「補遺A 2」を、計算結果は(文献1 )を参照して下さい。 *5 ;国の補助金なしの「限界設備価格 Bo 」の値。設備コストT (*8参照)の最小値と最大値に対して計算しました *6 ;「国の補助金額 D 」の値。 ただし、単位発電量当たりの市販電力生産用化石燃料輸入金額 U =6.53円/kWhとして求めた(補遺A2参照) *7 ; 国の補助金付きの「限界設備価格 Lo 」で、Lo = Bo + D として求めた *8 ; 政府の決めたFIT 制度での設備建設コストTの値で、 設備建設費に設備維持費{(年間設備維持費)×(使用年数Y)}を加算して求めた値、設備規模の最大と最小に対する値で示しました

 

上記から判るように、どう考えても、「エコ(=CO2排出削減)」を目的とした再エネ電力の利用・拡大を図るための「FIT制度」の適用を継続する必要はありません。と言うよりも、日本経済の現状を考慮すると、成長の継続を前提としたFIT制度の適用によるCO2排出削減政策はあり得ないのです。この不条理なFIT制度の速やかな廃止こそが求められるべきです。それでも、すでに、高い買取価格で契約した再エネ電力の買取は続けなければなりません。

 

④ 「FIT制度」を利用したメガソーラ事業に中国の資本が入ってきました。輸入化石燃料の代替の再エネの生産に海外資本の導入はあり得ません。化石燃料の枯渇後に日本経済が生き残るためには、経済成長の抑制を前提とした国産の再エネ電力の利用こそが求められなければなりません。実は、世界中の全ての国が、このエネルギーの100 % 自給を目指すことが、エネルギー資源の奪い合いの無い平和な持続可能な世界を創る道です

12月4日(2017年)のNHKのクローズアップ現代+によると、中国の企業が日本のメガソーラ事業に参入してきたと報じていました。中国製の太陽光発電素子は、日本製のそれに較べて圧倒的に安価です。それは、この発電素子の製造コストが人件費に支配されるために、一人当たりの実質GDPが日本の1/7以下(2014年の値)と小さいことから想定されるように、中国製の太陽光発電設備の市販価格は、日本製に較べて大幅に小さくなります。したがって、現在、すでに、日本国内におけるメガソーラの設備として中国製が利用されているようです。前節③の ( 1 )、( 2 ) 式から判るように、電力を安価に市販できる、すなわち発電コストの低い再エネ電力生産設備を用いれば、「FIT制度」の適用による高い固定買取価格で販売できる電力の売り上げ金額、すなわち、事業収入が大きくなるのです。いま、上記(③)したように、FIT制度の適用による市販電気料金が高騰してきて、この買取価格が低下し、中国製の安価な設備を利用しても採算がとれないとして、国内の事業者が手を引くようになっているメガソーラの事業に、中国の事業者が、安価な発電設備を直接持ち込んで、この事業に参入しようとしているようです。一度、「FIT制度」の認定を受けた設備での買取価格は、その設備の使用期間(メガソーラでは20年とされています)中、変わらないことになっているので、この事業により長期間安定な事業収益を上げることができるからです。

ところで、この中国によるメガソーラ事業の日本への参入についてのNHKの報道でも触れられていない大事なことが指摘されなければなりません。それは、化石燃料のほぼ全量を輸入に依存している日本においては、この輸入化石燃料代替の再エネ電力は、国産でなくてはならないことです。すなわち、中国からの輸入設備で生産した電力は、その生産に必要な資金を中国が支出していますから、結局は、その生産電力を中国から輸入していることと同じことになります。さらに、メガソーラ事業で生産された電力を「FIT制度」により、有価で買取る場合には、火力発電用の化石燃料の輸入金額よりも高い金額で電力を買取るという奇妙なことになります。どうしてこんなことが起こるのかというと、それは、再エネ電力利用の目的が化石燃料の代替ではなく、地球温暖化対策としての「エコ(=CO2排出削減)」とされ、エネルギー生産の費用とは無関係になっているからです。

化石燃料の代替として用いられる再エネ電力が国産でなければならない理由がもう一つあります。それは、この再エネ電力の生産が国産であれば、その金額分、化石燃料の輸入金額が節減できるので、国が補助金を使って、この再エネ生産事業の実行を支援できることです。

この国産の再エネ電力生産の際の「国の補助金D 」の支給額は次式で計算されます。

「国の補助金額 D 」=(単位発電設備容量kW当たりの年間発電量P )

×「有効再エネ利用比率 i 」×(単位発電量当たりの市販電力生産用の化石燃料輸入価格 U )×(設備使用年数 Y )                         ( 3 )

先(③)の「限界設備価格 Bo 」に、この「国の補助金D 」を加算した「国の補助金付きの限界設備価格 Lo 」の値は、

「国の補助金付き限界設備価格 Lo 」=「限界設備価格 Bo 」+「国の補助金D」( 4 )

として計算されます。

この具体的な補助金額の試算例を、メガソーラおよび陸上風力発電の場合について補遺A 2 に示すとともに、再エネ電力種類別のこのD およびLの値の試算値も 表 1に示しました。

この再エネ電力の生産のための「国の補助金D 」は、結局は、市販電気料金の値上げの形で、国民の負担となりますから、「FIT制度」と同じになるのではないかとの指摘があるかと思いますが、それは違います。と言うのは、化石燃料が枯渇に近づいて、現用の火力発電のコストが、「国の補助金付きの再エネ発電の製造コストLo 」より高くなるまでは、この「国の補助金 D 」の支出は不必要だからです。

以上、多くの数式や計算を用い、判り難いと思いますが、このような厄介な計算の結果があって初めて、「FIT制度」の適用が無ければ成り立たない「エコ(=CO2排出削減)」のための今すぐの再エネ電力利用の不条理が明らかになるのです。すなわち、この不条理な「FIT制度」の適用を廃止することで、初めて、国民に経済的な負担をかけない化石燃料枯渇後の再エネ電力の利用への道が拓けて見えて来るのです。

 

やがて、現在の経済成長を支えている化石燃料が枯渇して、再エネのみに依存しなければならない社会がやってきます。それは、現在に較べて、大幅に成長が抑制される社会です。しかし、一方で、世界の全ての国が、先進国も途上国も、自国産の再エネのみに依存して自国の経済を支えなければならない社会は、エネルギー資源を奪い合う競争が無い、したがって、現状の大きな貧富の格差が解消できる、人類が理想とする平和が期待される社会だと言えます。現状の争いの絶えない世界か、如何にして、この平和な世界へとソフトランデイングするか、その具体的な方法が「FIT制度」の適用なしの、化石燃料代替の再エネ電力の利用です

この化石燃料が枯渇後の経済成長が抑制される条件下で、全ての国が再エネ電力に依存する、貧富の格差のない理想的な平和な世界へのアプローチの方法については、稿を改めて記述します。

 

補遺A 1;メガソーラと陸上風力発電の「限界設備価格 Bo 」の試算例

本文 ③ の ( 1 ) 式で与えられる再エネ電力の「限界設備価格 Bo 」の試算例を、事業用太陽光発電(メガソーラ)と陸上風力発電の場合について示します。

メガソーラの場合は、本文の ( 2 ) 式に、 本文 表1 から、(年間平均設備稼働率y )= 0.090 を代入して、

(単位発電設備容量当たりの発電量 P )

=(1 kW/kW-設備 )×( 8,760 h/年)×(0.090 )= 788.4 kWh/kW-設備

および、(設備使用年数 Y )=20 年、(市販電力としての販売価格H )= 3.75 円/kWh(本文 表1 参照)を( 1 )式に代入して、

「限界設備価格Bo 」

=( 1/2 ) ×(P = 788.4 kWh/kW-設備 )×(Y = 20年)×(H = 3.75円/kWh )

= 2.96 万円/kW-設備

陸上風力発電の場合は、(年間平均設備稼働率 y )= 0.288 (本文 表 1から)として、

(単位発電設備容量kW当たりの発電量 P )

=(1 kW/kW-設備 )×( 8,760h/年)×(0.288 )= 2,523 kWh/kW-設備  となり、

「限界設備価格 Bo 」= ( 1 / 2 ) ×(2,523 kWh/kW-設備)×(Y =20年)

×(H = 3.75円/kWh)= 9.46 万円/kW-設備

 

補遺A 2; 再エネ電力を用いたときの 国の補助金額 D 」の試算例 

本文 ④ の ( 4 ) 式で与えられる再エネ電力の利用での「 国の補助金D 」の値をメガソーラおよび 陸上風力発電の場合について試算しました。

本文 ( 3 ) 式のなかのこの「国の補助金D 」の計算に必要な「有効再エネ利用比率 i 」は、私どもが定義した概念で、その値は、再エネ電力生産での一次エネルギー(化石燃料資源量換算値として)の収支から次式で求めることができます。

「有効再エネ利用比率 i 」= 1 – 1 /(産出/投入エネルギー比 μ)      ( A 1 )

ただし、

(産出/投入エネルギー比 μ)=(産出エネルギー)/(投入エネルギー)    ( A 2 )

この「有効再エネ利用比率i 」の値の具体的な計算方法については、私どもの近刊(文献 1 )を参照して頂くこととして、再エネ電力導入のFIT制度の施行時(2012年度)のi の値は、メガソーㇻでは85.7 %、陸上風力発電では89.4 ~ 95.6 % と試算されます(本文 表 1 参照)。

また、(単位発電量当たりの市販電力生産用化石燃料輸入価格U )の値は、

U ={(860 kcal/kWh ) /(単位発電量kWh当たりに必要な化石燃料消費量)}

×(化石燃料輸入CIF価格)                                             ( A 3 )

として計算され、FIT制度施行時のUの値は、エネ研データ(文献2 )に記載のデータを( A 3 )式に代入して、6.53円/kWhと与えられました(文献 1 参照)。

これらの値を本文中の ( 4 ) 式に代入して、再エネ電力利用での「国の補助金 D 」の値を求めることができます。

メガソーラの場合は、

「国の補助金D 」

=(P =788.4 kWh/kW-設備(補遺A 1 参照))×( i = 0.857 ) ×(U = 6.53 円/kWh )×(Y= 20年)= 8.9万円/kW-設備

陸上風力発電の場合は、

「国の補助金 D 」

= ( P =2.523 kWh/kW-設備(補遺A 1 参照))×( i = 96.9 ~ 89.4) ×(U =6.53円/kWh )×(Y = 20年)= 31.9 ~.29.5 万円/kW-設備

と計算されます。

 

<引用文献>

1.久保田 宏、平田賢太郎、松田智;「改訂・増補版」化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉――科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する――、Amazon 電子出版、Kindle、2017年

2.日本エネルギー経済研究所計量ユニット編;EDMCエネルギー・経済統計要覧、2017、省エネセンター、2017年

3.平成22年度 環境省委託事業;再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査 報告書。平成23年3月 株式会社エックス都市研究所、アジア航測株式会社、パシフィックコンサルタンツ株式会社、伊藤忠テクノソリューションズ株式会社

 

ABOUT THE AUTHER
久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

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