「エネルギーの安全保障」には、国際的貧富の格差の解消による世界平和の確立が前提となります (その3)  化石燃料枯渇後の「エネルギーの安全保障」は、成長の抑制を余儀なくされる再生可能エネルギー(再エネ)電力に依存する貧富の格差の無い平和な世界への移行です。それは、「パリ協定」のCO2 排出削減を化石燃料消費の節減に代えることで実現可能となります

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 事務局長 平田 賢太郎

(要約):

① 地球温暖化対策のCO2 排出削減のためとして、国民に経済的な負担を強いる「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)」の適用で、今すぐの利用・拡大が求められている再エネ電力ですが、化石燃料消費を節減すれば、温暖化の脅威となるCO2排出は防げますから、化石燃料の枯渇後、その代替としての再エネ電力の利用は、その発電コストが化石燃料を用いる火力発電のコストより安価になってからでよいのです

② 有限の化石燃料資源枯渇後の「エネルギーの安全保障」を担う国産の再エネ電力に依存する社会では、今までの資本主義社会での経済成長はできません。それは、再エネ電力の「エネルギーの利用効率」の値が、化石燃料を用いるエネルギーの利用効率の値より、大幅に低くなるからです

③ 化石燃料の枯渇後の再エネ電力のみに依存しなければならない世界は、経済のマイナス成長を強いられる世界ですが、反面、経済成長を競い合うことのない貧富の格差が最小限に抑えられる平和な、人類にとっての理想の世界になるはずです

④ 化石燃料枯渇後の平和な世界への移行のための具体策として、私どもは、「全ての国が協力して今世紀中の平均の一人当たりの化石燃料消費量を2012年の世界平均の値1.54石油換算トン にすべきとする、化石燃料消費を公平に使い長持ちさせる」方法を提案しています

⑤ 化石燃料の枯渇後の平和な世界への移行のための私どもの提案を実行可能にする方法として、私どもは、いま、地球温暖化対策として全ての国の協力で進められている「パリ協定」のCO2 排出削減目標を化石燃料消費の節減に代えることを提案しています。この私どもの提案の実現こそが、貧富の格差の無い平和な世界を導くことで、ノーベル平和賞を受賞したIPCCの主張が、その本来の目的を達成できる道だと私どもは確信しています

 

(解説本文):

① 地球温暖化対策のCO2 排出削減のためとして、国民に経済的な負担を強いる「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)」の適用で、今すぐの利用・拡大が求められている再エネ電力ですが、化石燃料消費を節減すれば、温暖化の脅威となるCO2排出は防げますから、化石燃料の枯渇後、その代替としての再エネ電力の利用は、その発電コストが化石燃料を用いる火力発電のコストより安価になってからでよいのです

現代文明社会を支えている化石燃料の枯渇が近づいているいま、人類の全てが、この化石燃料の枯渇について真剣に考えなければならない時にあることは間違いありません。この化石燃料の枯渇に備えて、その代替と考えられた原子力エネルギーの利用が、本稿(その1)で述べたように、人類の持続可能な生存にとって、利用すべきではないことが明らかになりました。結局、全ての国にとって、化石燃料枯渇後の「エネルギーの安全保障」を担うことができるのは、再生可能エネルギー(再エネ)電力しか無いのです。

この再エネ電力の実用化・利用に際しては、現用の化石燃料を用いる火力発電の電力生産コスト(発電コスト)と較べて、より安価な再エネ電力が、その種類を選んで、順次、用いられるべきです。そのためには、下記の「コラムC 1」に示すように、現用の火力発電のコストとの比較で、再エネ電力の発電コストの値を、可能な限り正確に評価する必要があります。

ところが、いま、電力生産の主体を担っている化石燃料を用いる火力発電に代って、再エネ電力の利用の拡大が求められているのは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)が訴える地球温暖化対策としてのCO2の排出削減の要請に応えるためとされています。そのために、再エネ電力であれば、何でもかんでも、その種類を選ばずに、導入しなければならないとして、火力発電主体の現用の市販電力より発電コストの高い再エネ電力のいますぐの導入のために、EUで先行していた「再生可能エネルギギー固定価格買取制度(FIT制度)」が適用されています。すなわち、政府が、この発電コストの高い再エネ電力を電力会社に買い取らせて、現用の市販電力の発電コストとの差額分を市販電力料金の値上の形で国民に経済的な負担を押し付けています。

しかし、私どもが調査した結果(私どもの近刊(文献1 )参照)では、世界の化石燃料の消費を、現在(2012年)以上に増加させなければ、IPCCが主張する地球温暖化の脅威は最小限に抑えることができます。すなわち、いま、人類の生存にとって求められるのは、このFIT制度無しには、実行できないCO2の排出削減のための再エネ電力の利用ではなく、世界の貧富の格差の拡大を解消するための先進諸国の化石燃料消費の節減なのです。この化石燃料消費増加の抑制を行っても、やがて、資源量が少なくなって、その国際市場価格が高くなり、火力発電のコストが、再エネ電力の発電コストよりも高くなる時がやってきます。その時に、はじめて、化石燃料代替としての再エネ電力を、電力料金の値上で国民に経済的な負担をかける不条理な「FIT制度」の適用無しで用いればよいのです。これが、化石燃料枯渇後の「エネルギーの安全保障」を目的とした再エネ電力の利用・拡大でなければなりません。

 

「コラムC 1」; 化石燃料等を用いた火力発電と、再エネ電力との発電コストの比較

日本エネルギー経済研究所編:EDMCエネルギー・経済統計要覧(以下、エネ研データ(文献2 )と略記します)に記載のデータを用いて、日本における電力生産での発電コストを試算してみます。

現在、電力生産の主体を担っている化石燃料等を用いる火力発電では、この燃料費が発電コストの主体を占めますから、その発電コストは、次式で概算されます。

(火力発電の発電コスト)=(単位発電量当たりに必要な燃料の購入金額)

×(発電設備の建設とその維持費等を考慮した補正係数)            (C 1)

ここで、

(単位発電量当たりに必要な化石燃料の購入金額)

= {(燃料購入費 円/トン)/(燃料発熱量kcal/kg)}×(860 kcal/kWh) /(発電効率) ( C 2 )

として概算されます。

この燃料購入費として私どもは、「化石燃料の輸入CIF価格(産地の出荷価格に運賃と保険料を上乗せした価格)」を用い、さらに、発電効率を考慮して、単位発電量(kWh)当たりの燃料購入金額を計算することを提案しています。

また、(発電設備の建設と維持費等を考慮した補正係数)としては、火力発電での実績データに基づいて、上記の(化石燃料の購入金額)の2 ~ 3割増しとして乗じます。

なお、この設備維持費のなかには、使用燃料の燃焼排ガス処理費等も含まれますから、石炭火力では、LNGや石油火力の場合より、この補正係数の値が大きくなります。

日本が再エネ電力導入促進のためのFIT制度の導入を決めた2012年度の燃料用一般炭の輸入CIF価格10,493円/トン、 発熱量6,139 kcal/kg、発電効率42 %、設備費等を考慮した補正係数を1.3 として計算される石炭火力の発電コストは、( C 1 ) および( C 2 )式から4.55円/kWhと試算されます。

また、原油を燃料とした発電(日本では、いまでも、重油とともに原油が、火力発電の燃料として用いられています。原油が安かった時の名残りです)では、原油の輸入CIF価格、59,358 円/kℓ、発熱量9,120 kcal/kℓ、発電効率42%、設備費等を考慮した補正係数を1.2として、発電コストは16.0 円/kWhと計算されます。LNG発電では、輸入CIF価格71,538 円/トン、発熱量13,000kcal/kgで、発電効率42 %、設備費を考慮した補正係数を1.2とすると、発電コストは、13.5円/kWhとなります。上記のいずれも、計算経過は省略しました。

ここで、原油を用いた火力発電のコストが非常に高くなるのは、この2012年度、原油の先物商品取引市場での投機買いで、その輸入CIF価格が114ドル/ バレルもしており、輸入LNG価格も、そのあおりを受けて高くなっていた結果です。したがって、原油価格の高騰が終わった後の2015年以降の石油やLNG火力の発電コストは、当時の半分程度と考えてよいでしょう。これに対して、当時(2012年度)の石炭の輸入CIF価格の上昇は、原油輸入価格の高騰時以前の5割増し程度でしたから、現在の石炭火力の発電コストは、当時の7割以下になりますから、これからも石炭火力発電のコストが最も安価を保つでしょう。

一方、再エネ電力の生産では、燃料費は不要と考えて、次式で概算されます。

(再エネ電力の発電コスト 円/kWh)

=(再エネ電力生産設備の製造と使用に要する投資金額 T 円)

/ ( 再エネ電力生産での発電量 kWh)                    ( C 3 )

ここで、

(再エネ電力の発電量)=(発電設備容量kW)×(年間時間8,760 h/年)

×(年間平均設備稼働率y)×(設備使用年数Y)     ( C 4 )

例えば、現在、日本で、地球温暖化対策として、FIT制度を適用して、優先的に、その導入が進められている太陽光発電(家庭外、メガソーラ)の設備の単位設備容量当たりの設備価格(設備維持費を含む) T =52.5万円(FIT制度導入時、2012年度の値)、年間平均設備稼働率y = 0.090 、設備使用年数 Y =20年とすると、( C 3 )、( C 4 ) 式から、このメガソーラの発電コストは、33.3円/kWhと概算されます(計算経過省略)。 ただし、太陽光や風力発電では、出力変動が大きいので、これを平滑化するための蓄電設備が必要になるとして、その蓄電設備コストを加えた設備価格Tの値が2倍になると仮定すると、このメガソーラの発電コストは、66.6円/ kWhと非常に高い値になります。

同様の計算を、FIT制度を適用して導入されている他の再エネ電力についても。その発電コストの試算値を求めて、表 C 1 に示しました。しかし、同時に導入されたバイオマス発電については発電コストが原料バイオマスの価格に依存しますから、発電コストの計算方法が化石燃料の場合と同じになるうえに、その原料バイマスの国内供給量の制約を考えると、実用化・利用の対象にはならないと考えて除外しました。

この表A 1の再エネ電力種類別の発電コストの値に見られるように、化石燃料の枯渇後に優先して用いられるべき再エネ電力は、いま、世界で、圧倒的なシェアを占めている風力発電で、日本で優先的に利用が進められているFIT制度での高い買取価格無しには、将来とも、大幅な実用化が難しいと考えられる太陽光発電の利用は、見直されるべきだと考えます。

 

C 1  FIT制度の適用を受けている再エネ電力種類別の発電コストの試算値

(私どもの近刊(文献1 )に記載のデータを用いて、一部改訂、作成しました)

注   *1 ; 再エネ発電の年間平均設備稼働率 yの値、「平成22年環境省委託事業;再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書、平成22年3月」のデータから私どもが求めた値  *2 ; 設備使用年数の略、FIT制度導入時(2012年度)に, 政府が決めたFIT制度の買取契約年数の値  *3 ;FIT制度導入時(2012年度)に、政府が決めた設備建設コストT 、設備建設費に設備維持費{(年間設備維持費)×(使用年数Y)}を加算して求めた最大と最小の値 *4;発電コスト、表中の定数値を用い、本文中の計算方法を用いて試算  *5;太陽光発電、風力発電で、出力の平滑化のための蓄電設備を考慮した場合の発電コストの値、設備費Tを2倍と推算

 

 

② 有限の化石燃料資源枯渇後の「エネルギーの安全保障」を担う国産の再エネ電力に依存する社会では、今までの資本主義社会での経済成長はできません。それは、再エネ電力の「エネルギーの利用効率」の値が、化石燃料を用いるエネルギーの利用効率の値より、大幅に低くなるからです

化石燃料の枯渇後に訪れる再エネ電力のみに依存する社会での再エネ電力の「エネルギー利用効率」の値が、現在の化石燃料を用いる火力発電主体の電力生産のエネルギー利用効率の値に較べて、大幅に低くなることが、一般には、見落とされています。

すなわち、下記「コラムC 2」に記しますように、現用の化石燃料代替の再エネ電力の生産では、(産出されるエネルギー量)から、このエネルギーを産出するのに必要とされる(投入エネルギー量)を差し引いた(有効利用可能なエネルギー量)の(産出エネルギー量)に対する比率、(再エネ電力の有効エネルギー利用比率i )の値が、同じ電力の生産に用いられる現用の火力発電の場合に較べて大幅に小さくなります。したがって、この再エネ電力に依存する社会では、化石燃料エネルギーを用いた、資本主義社会での経済成長は望めなくなると考えるべきです。

 

「コラムC2」; 再エネ電力の(有効エネルギー利用比率i )の計算法(私どもの近刊(文献1 )から、一部改訂して要約しました)

現用の化石燃料の枯渇後、その代替として用いられる再エネ電力の(有効エネルギー利用比率 i )の値は次式を用いて概算することができます。

(有効エネルギー利用比率 i )

= 1 -1/ (産出 / 投入エネルギー比 μ)                            ( C 5 )

ただし、

(産出 / 投入エネルギー比 μ)=  (産出エネルギー) /(投入エネルギー)  ( C 6 )

ここで、

(産出エネルギー)=(単位発電設備容量kW当たりの発電量P kWh/kW-設備)

×(860 kcal/kWh)/ (電力の一次エネルギー換算係数f = 0.367)        ( C 7 )

一方、(投入エネルギー)の値を簡単に推算する方法がないことが問題になります。

この簡便な概算方法として、私どもは、次の方法を提案しています。

(投入エネルギー)

= (単位発電設備容量kW当たりの設備の製造と使用の投資金額T 円/kW-設備)

×(生産設備の製造・使用に必要な金額の単位量たりの一次エネルギー消費C kcal/円)

( C 8 )

ここで、Cの値は、エネ研データ(文献2 )に与えられる2012年度の値を用いると、

(国内一次エネルギー消費)=485,980×1010 kcal(一次エネルギー)、

(国内総生産GDP)= 499,434 ×109 円 から、

C = 9.73 kcal(一次エネルギー)/ 円

と計算されます。

なお、( C 6 )、( C 7 )、( C 8 )式と、上記(①)の「コラムC 1 」の(再エネ電力の発電コスト)を表わす( C 3 )式から、

(産出 / 投入エネルギー比 μ)=(単位電力kWh当たりの一次エネルギー量kcal)

/ [ (発電コスト 円/kWh)

×(生産設備の製造・使用に必要な金額の単位量当たりの一次エネルギー消費C kcal/円))]                                               ( C 9 )

として計算されます。ただし、

(単位電力量kWh当たりの一次エネルギー換算量kcal)

= (860 kcal /kWh)/ ( 電力の一次エネルギー換算係数f = 0.367 )

= 2,343 kcal(一次エネルギー)/kWh

例えば、太陽光発電(家庭外、メガソーラ)の場合、上記(①)の「コラムC 1 」の発電コストの試算値33.3 円/kWhから、( C 9 )式を用いて、

(産出 / 投入エネルギー比 μ )=(2,343 kcal(一次エネルギー)/kWh)

/ (33.3×104 円/kWh)×(C = 9.73 kcal(一次エネルギー)/ 円 =7.23

となります。

したがって、( C 5 ) 式から、

(有効エネルギー利用比率 i )= 1 -1 / 7.23 = 0862 = 86.2 %

と計算されます。

しかし、この値は、太陽光発電設備の製造に、現用の化石燃料エネルギーを用いた場合ですが、この再エネ設備をつくるのに化石燃料でなく、その設備でつくられた再エネ電力を用いなければならなくなり、そのための補正係数として、(産出 / 投入比μ)の値に、さらに、(1 / 1.459) を乗じる必要があり(私どもの近刊(文獻1 )参照)ますから、そのときの

(産出 / 投入エネルギー比 μo )=7.23 / 1.459 = 4.96

となり、

(有効エネルギー利用比率 io )= 1 - 1 / 4.96 = 0.798 = 79.8 %

となります。

さらに、出力変動の大きい太陽光電力を市販電力として、大量に利用するには、電力平滑化のための蓄電設備が必要になります。したがって、この蓄電設備を加えることで、再エネ電力設備への(投入エネルギー)の値が2倍になると仮定すると、この電力の平滑化を行った場合の(産出 / 投入エネルギー比 μoe )の値は、

(産出 / 投入エネルギー比率 μoe )=4.96 /2 = 2.48

となり、(有効エネルギー利用比率 ioe )の値は、

(有効エネルギー利用比率 ioe )=  1 -1 / 2.48 = 0.597 = 59.7.%

まで低下します。

上記(①)の「コラム C 1 」の表C 1 に示す再エネ電力種類別の(発電コスト)の値から試算した(再エネ有効利用比率 i )の試算値を表C 2 に示しました。

 

C 2  FIT制度の適用を受けた再エネ電力種類別の(有効エネルギー利用比率 i )の試算値  (「コラムC 1 」の表C 1 の(発電コスト)をもとに計算、作成 )

注   *1; 発電コスト、「コラムC1」の表A 1 から再録   *2; 産出/ 投入エネルギー比μの略、ただし、発電費(注*1 )を用いて、(C 9 )式で計算  *3; 「有効再エネルギー利用比率i 」の略、産/ 投比μ(注:*2 )の値を用いて i  = ( 1 -1 /μ) として計算 *4 ;産出/投入比μoの略、再エネ電力のみに依存する場合の値、μo =μ/ 1.459 として概算(本文参照) *5 ;有効再エネルギー利用比率ioの略、再エネのみの場合のμo の値に対応 *6;  再エネのみに依存する場合の産/ 投比μo (注 *4 )の値に、太陽光、風力発電の出力変動を平滑化するための蓄電設備の製造・使用での投入エネルギーを考慮した(注*4 )時の値、(μo)  = μo / 2として概算 *7 ;太陽光、風力で蓄電設備を考慮した場合の再エネのみに依存する場合の「有効再エネルギー利用比率ioe」の値

 

この再エネ電力を用いた場合に対して、化石燃料を用いた火力発電では、この再エネ電力の(有効エネルギー利用比率)に相当する考えが、いままで無かったと言ってよいようです。それは、化石燃料を用いた火力発電では、(産出エネルギー)に較べて、化石燃料資源の採掘・使用等に要する(投入エネルギー)の割合が、無視できるくらいに小さいと考えられていたためでしょう。しかし、化石燃料資源が枯渇に近づいて、その国際市場価格が高くなれば、この化石燃料を用いた火力発電のコストも高くなり、したがって、この(有効エネルギー利用比率)の値も低下してきます。 「コラムC 1」に示した2012年度の化石燃料を用いた火力発電の発電コストの値、石炭 4.55円/kWh、LNG 13.5円/kWh、原油16.0円/kWhから、再エネ電力に対すると同様、( C 4 )式で定義される(有効エネルギー利用比率 i )の値は、石炭では、98.1 %ですが、LNGで94.4 %、原油で93.4 % と試算されます。しかし、これでも、まだ、再エネ電力に較べれば高い値が保たれていると見てよいでしょう。

これら化石燃料の(有効エネルギー利用比率 i )の値に較べて、その代替となる再エネ電力に依存する社会では、表C 2に示される再エネ電力の(有効エネルギー利用比率i )の値に見られるように、化石年燃料を用いる火力発電の(有効エネルギー利用比率 i )に較べて、はるかに小さくなると予測されますから、大幅な経済成長が抑制されることが厳しく認識されるべきです。と同時に、そこで用いられる再エネ電力の(有効エネルギー利用比率 i )の値の種類別の違いにも考慮して、その利用での選択にも十分な配慮が必要になります。

 

 

③ 化石燃料の枯渇後の再エネ電力のみに依存しなければならない世界は、経済のマイナス成長を強いられる世界ですが、反面、経済成長を競い合うことのない貧富の格差が最小限に抑えられる平和な、人類にとっての理想の世界になるはずです

やがて確実にやってくる、化石燃料枯渇後の再エネ電力のみに依存しなければならない世界について考えて見ます。その世界では、生活と産業のために必要なエネルギーの殆ど全てが、再エネ電力で賄われなければならなくなるはずです。もちろん、これは、日本だけの問題ではありません。現在の物質文明社会を謳歌している豊かな先進諸国にも、この物質文明の恩恵を受けていない貧しい途上国にも、世界中の全ての国にとっての化石燃料枯渇後の「エネルギーの安全保障」に要求される条件なのです。

では、何故、この再エネ電力の利用が、全ての国に共通に受け入れられなければならないのでしょうか? それは、この再エネ電力が、全ての国にとっての国産のエネルギーであるとともに、地球上において、全ての国および人にとっての共通の、持続可能なエネルギーと考えられているからです。

ところで、ここで、この「持続可能」と言う言葉ですが、これを、エネルギーについて言えば、「再生可能」と同じ意味なのですが、「永久に使える」と言うことになります。実は、この「持続可能」と言う言葉が、余りにも安易に使われているように思います。確かに、太陽光や風力、さらには、地熱などは、人類の寿命に較べれば、永久に使える持続可能なエネルギーかも知れませんが、これを、人類が生活や産業用のエネルギー、例えば電力に変換して使うためには、上記(②)したように、そのエネルギー利用効率の値が、現在、人類が使っている化石燃料を用いる火力発電のエネルギー利用効率の値に較べると、大幅に劣ります。結局は、その分だけ経済成長が抑制された状態で初めて、再生可能となるのです。もちろん、科学技術の進歩によって、このエネルギー利用効率を高めることは可能ですが、そこには科学の原理に基づく限界があります。すなわち、再エネ電力を、永久に使おうとすると、現在、化石燃料を大量に使っている先進諸国では、この生活や産業用に使えるエネルギー量を大幅に減らさざるを得ません。逆に、いま、化石燃料の恩恵に余り預かっていない途上国の人々にとっては、自国産の再エネ電力に依存しても、生活や産業用に使えるエネルギー量を、将来的には、現在よりも増やすことができるかもしれません。

これを言い換えれば、化石燃料枯渇後の「エネルギーの安全保障」を再エネ電力に依存する世界は、各国が公平に自国産の再エネに依存することで、エネルギー資源の採取のために争う必要の無い、貧富の格差が最小限に抑制された平和な、人類にとっての理想の世界になると期待できるのです。では、この理想の世界は、化石燃料資源の枯渇とともに、だまっていても、やって来るのでしょうか? そんなことはありません。世界各国が化石燃料消費の増加をいまのまま継続すれば、その枯渇は今世紀中の早い時期に必ずやってきます。そのときまでに、先進国も途上国も全ての国が、生活と産業用に必要なエネルギーを、再エネ電力で賄う体制ができていなければなりません。すなわち、上記の理想のエネルギー消費の世界に移行するための具体的な行動が求められ、その行動への世界の全ての国の協力が必要になるのです

 

 

④ 化石燃料枯渇後の平和な世界への移行のための具体策として、私どもは、「全ての国が協力して今世紀中の平均の一人当たりの化石燃料消費量を2012年の世界平均の値1.54石油換算トン にすべきとする、化石燃料消費を公平に使い長持ちさせる」方法を提案しています

世界経済を支えている化石燃料は、いまでも、最も安価な経済成長のエネルギー源です。したがって、この化石燃料資源が枯渇に近づき、その国際市場価格が高騰して、その代替としての再エネ電力を用いる方が安くつくようになった時に、初めて、それを用いて、上記(③)した、世界各国の貧富の格差を最小限に抑える平和な世界に移行すればよいのです。この現状の先進国と途上国との間の化石燃料消費の大きな違いによる貧富の格差を解消する方法として、私どもは、「地球上に残された化石燃料を、それが枯渇するときが来るまで、全ての国が公平に分け合って大事に使うこと」を提案しています。

具体的には、「今世紀の半ばの2050年を目標にして、全ての国が、一人当たりの化石燃料の消費量を、現在(2012年)の世界平均の値 1.54 石油換算トン にする」としています。ただし、現在、各国の人口は国ごとに年次増減がありますから、この2050年の人口の増減に応じた化石燃料消費量の目標値の補正を行う必要があります。

エネ研データ(文献2 )に記載のIEA(国際エネルギー機構)のデータから、この私どもの提案を図示すると、図1のようになります。この図1にみられるように、この私どもの提案の化石燃料消費の節減の目標の達成は、先進諸国にとっては、かなり困難なように見えます。

注; 2050年の一人当たりの化石燃料消費の目標値の十字印は2012年の世界平均の値1.54トン/人/年を、2050年の世界人口の推定値を85.9億(2012年の1.21倍)として補正した値1.28トン/人/年です。国別の目標値は、それぞれの国の人口増減の予測値に応じて補正を行います。

各国の一人当たりの化石燃料消費量の年次変化と、私どもの提案する節減目標値(2050年)の関係の図示(エネ研データ(文献2 )に記載のIEAデータをもとに作成)

 

ところが、実は、いま、これと同じような方策が、IPCCが主張する地球温暖化対策としてのCO2排出削減のために、国際的な与論の合意を得て「パリ協定」の実行として進められています。この「パリ協定」のCO2の排出削減策では、各国が自主的に、その削減目標を設定することで、今世紀中のできるだけ早い時期にCO2排出量のゼロを実現しようとしています。この「パリ協定」のCO2排出削減策を、図1に示す私どもが提案する化石燃料の節減策と対比するために、各国の一人当たりのCO2 排出削減量に直して 図2 に示してみました。ただし、ここでの各国の一人当たりのCO2 排出量としては、2014年までの実績値とともに、2015年以降についての各国の「パリ協定」のCO2 排出削減の自主目標値から計算した値を示しました。また、2050年のCO2 排出量目標値としては、図1 と同様に、2012年の世界平均の値4.61 CO2トン/年/人に、2050年の世界人口の予測値をもとに補正を加えた値としました。

注1 ; 2014年までは、エネ研データ(文献2)に記載の各国のCO2排出量の実績値、 注2 :2015以降は、「パリ協定」に向けての各国の自主目標値から計算したCO2排出量の値、 注3:2050年の一人当たりのCO2の排出量の目標値の十字印は、2012年の世界平均の値4.61 CO2トン/人/年 を2050年の世界人口の推定値を85.9億(2012年の1.21倍)として補正した値3.83トン/人/年です。国別の目標値は、それぞれの国の人口増減の予測値に応じて補正を行います。

図 2 各国の一人当たりのCO2 排出量の年次変化および「パリ協定」に向けての自主目標値と、私どもの提案する化石燃料消費の節減CO2 排出削減に換えた場合の目標値(2050年)の図示 (エネ研データ(文献2 )に記載のIEAデータをもとに作成)

 

化石燃料の消費量と、CO2の排出量の間には、大凡の比例関係があると考えてよいので、図1と図2 の比較から判って頂けるように、私どもが提案している、世界各国が協力して、今世紀中の年間平均の化石燃料消費を、2012年の値に保つことができれば、IPCCが主張する地球温暖化対策としてのCO2の排出削減が実現できることになります。しかし、その逆、すなわち、IPCCが主張するCO2の排出削減を行っても、化石燃料消費が節減できるとは限りません。それは、地球温暖化対策としてIPCCが推奨しているCCS (化石燃料の燃焼排ガス中からCO2を抽出・分離して埋め立てる方法)技術の適用では、CO2の排出は削減できても、世界経済が成長を続ければ、化石燃料消費は増加することになるからです。

したがって、上記(③)したように、地球上の化石燃料が枯渇に近づくなかで、化石燃料の代替に再エネ電力を利用したのでは、もはや、経済成長が望めないという厳しい現実を率直に受け入れて、世界経済のマイナス成長が強いられる再エネ電力に依存する平和な世界へとソフトランデイングする以外に人類が生き延びる道はないのです。

では、この私どもの化石燃料消費の節減提案では、今後の化石燃料の消費、その代替として再エネ電力の利用量が具体的にどうなるのか、その将来予測の結果を図3 に示しました。ただし、この将来予測に際して、私どもは、一人当たりのエネルギー消費の将来の値を、図4に示すように仮定しました。すなわち、世界の全ての国で、したがって、先進国(OECD35)と途上国(非OECD)が、ともに、2050年の化石燃料消費では、図1 におけると同様、2012年の値に人口補正を行った値とし、さらに、2100年の値はゼロとしました。また、再生可能エネルギーを含む一次エネルギー消費については、2100年の値を2050年に等しくしました。

この 図4の仮定から、図3の世界の消費量の値を求めるには、人口の将来予測値が必要になりますが、これを図5に示しました。ただし、この図5の人口の将来予測では、世界の人口が、2050年以降増加しないとの私どもの願望が入ったものになっています。この願望の入った予測は、図5に見られるように、先進国(OECD34)では、最近の人口増加の停滞から実現可能と考えられますが、近年の人口増加の著しい途上国(非OECD)で、その実現のためには、政策的な抑制措置が必要になるでしょう。持続可能な経済社会を創るには、この人口増加の抑制が避けて通れない問題と考えるからです。

注;2015年までの値はエネ研データ(文献2 )に記載のIEAデータによる値

図3 私どもの化石燃料消費節減案:今世紀末までの世界の一次エネルギー消費、同(化石燃料消費)、同(再生可能エネルギー)の年次変化

注; 2015年までの値はエネ研データ(文献2 )に記載のIEAデータによる値。 図中、化石は、化石燃料消費の略、一次エネは、一次エネルギー消費の略です

4 私どもの化石燃料消費節減案:今世紀末までの世界の一人当たりの一次エネルギー消費、同(化石燃料消費)、同(再生可能エネルギー)の年次変化

注;2015年までの値はエネ研データ(文献2 )に記載のIEAデータによる値

世界人口の年次変化の予測値(2016年以降は、私どもの願望を入れた予測値)

 

 

⑤ 化石燃料の枯渇後の平和な世界への移行のための私どもの提案を実行可能にする方法として、私どもは、いま、地球温暖化対策として全ての国の協力で進められている「パリ協定」のCO2 排出削減目標を化石燃料消費の節減に代えることを提案しています。この私どもの提案の実現こそが、貧富の格差の無い平和な世界を導くことで、ノーベル平和賞を受賞したIPCCの主張が、その本来の目的を達成できる道だと私どもは確信しています

いま、国際的な合意のもとで進められている「パリ協定」に対して、CO2の排出量が世界の15.4 %(2015年の値)を占める米国のトランプ大統領が離脱を表明しています。その理由は、世界のCO2排出削減のための途上国への米国からの援助資金が多額にのぼるからだとされています。訳の判らないことばかり言うトランプ大統領ですが、この言い分には一理があります。すなわち、地球温暖化対策としてのCO2の排出削減であれば、一人当たりのCO2排出量が世界平均の3.83倍もの米国をはじめ先進諸国が排出量を減らせば、それで済むのですから、国際間排出権取引のような訳の判らない方法を使って、CO2排出量の少ない途上国の排出削減のために必要なお金を先進国が途上国に支払う必要はないのです。

さらに、いま、お金をかけないで確実に世界のCO2 排出量を削減できる方法は、上記(③)したように、一人当たりの化石燃料消費量が世界平均を超えている新興途上国の中国と先進諸国が、「一人当たりの化石燃料消費量の今世紀中の平均値を、2012年の世界平均値に抑える」とする私どもが提案を実行する以外にないのです。この方法の実行では、CO2の排出削減のための再エネ電力の導入に必要だとして、電力料金の値上で国民に経済的な負担を強いる不条理なFIT制度も不要となるのです。やがて、化石燃料が枯渇に近づき、その国際市場価格が高くなって、エネルギー源として再エネ電力の利用が有利になった時に、はじめて、FIT制度の適用無しに、再エネ電力を利用すればよいのです。

この化石燃料枯渇後の再エネ電力に依存する貧富の格差を最小限に抑えた平和な理想社会へのソフトランデイングを実現する方法として、私どもは、いま、国際的な合意を得て進められている「パリ協定」のCO2 排出削減の目標を、化石燃料消費の節減に代えることを提案しています。2007年、IPCCは、地球温暖化対策として低炭素化社会を訴えることで、ノーベル平和賞を受賞されました。このIPCCの主張を実行しようとしている「パリ協定」の目的を、CO2の排出削減ではなく、化石燃料消費の節減に代えるとする私どもの提言の実行こそが、貧富の格差の無い平和な世界を導くことで、ノーベル平和賞を受賞したIPCCの主張が、その本来の目的を達成できる道だと私どもは確信しています。

 

<引用文献>

1.久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉――科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する――

電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月

2、日本エネルギー経済研究所 計量分析ユニット 編;EDMCエネルギー・経済統計要覧2018, 省エネルギーセンター、2018年

 

ABOUT THE AUTHER
久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

 

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