アベノミックスの本質的な戦略転換の必要性

我が国は、安倍新政権下、昨年末から「アベノミックス」による脱デフレの金融政策、財政再建、成長戦略等景気回復への足取りを進めているが、しかし、本質的な課題解決や新たな芽への先行的な対応を含むものではない。
 
1.高エネルギー政策から低エネルギー政策への転換
 
東日本大震災から2年以上を経過しているが、復興のスピードは遅い。体系的で眼に見える復興の足取りは遠い。むろん、地震・津波の広域の被害、原発事故による放射能汚染等の山積する課題を負ったことに起因しているという要因はあるが、しかし、地震は阪神大震災の経験、津波はこれまでの三陸津波被害、放射能は広島・長崎の被害等まったくのゼロからの出発ではない。

だが、この経験が生きているようにも思えず、また創造的な課題解決の知の結集でもない。この本質的な原因とその排除をしなければ、被害地及び被害者の貴重な犠牲が生きてこない。ある意味この復興は、「低エネルギー社会」への大転換期としての意味付けが必要である。多くの犠牲が日本の大転換へのきっかけとして、考えなければならないが、これまでの経過を見ると、危機も風化されていく様な感じすら受ける。当然、復興計画には、地域特性を生かした新しい発想を生かす必要がある。

地域特性とは、地域の地形、地域産業の特性、気象の変化構造、土壌や水質の特性、コミュニテイーの特性、雇用形態、住民の必要な交通システム、水や下水、処理等インフラの整備、人口構成、職住関連での集合住宅、住民の自立構造、教育関係、高齢者医療関係、行政サービスの範囲等である。これらは各地域別に暮らしの感覚や暮らし方の違いでもある。またこれらを前提にしながらも、防災、防犯さらには環境、エネルギーの未来課題を踏まえた今後の変化への対応を考慮する必要もある。

 
 こうした発想によって形成された形と住民の感覚や想いを可視化することで、さらに発展的な姿に変容しながら、合意を形成することである。地域開発は「人間的な視点による」新たな視点を必要としている。社会インフラ自身が、工業社会、情報社会、知識社会への推移を経て変化していくものでなければならない。国民の合意形成プロセスは、情報を開示し、説明し、説得したうえで、選択をさせると言う時間とテマヒマの掛かるものであり、そのようなプロセスこそが、国民の自立を強化するものである。
 
その実践プロセスの上に、日本の低エネルギー政策及び社会の仕組みの転換がなされなければならない。
 
経済危機の起こる以前から、石油ピーク問題があり、現在の生産システムによる需要の拡大が石油生産量を越えており、石油価格の高騰をもたらし、同様に希少資源や穀物の価格高騰等有限資源の危機的な状態や温暖化等の気候変動問題、世界人口の増加による食糧問題等底流にはいくつかの世界的な課題を内包した時代でもある。

その点を踏まえて、経済危機以前から、世界的には、イノベーション政策、イノベーション戦略の重要性が検討され、時代を乗り切るためには、新たな変革や知の再編が緊急であった。米国の科学技術や新規事業への重点投資や人材育成投資、EC統合等の新たな市場創出やアジアの高付加価値産業育成や事業の重点投資等すでに長期視点に立って、戦略の展開がなされていた。我が国も当然長期視点の上で、政策や戦略の転換がなされなくてはならなかったのである。

 
その前提の上で経済危機の克服を踏まえて、危機突破の構造を再構築する上で、検討するべき戦略は、有限資源国家として、持続的な成長を可能にする有限資源の最適活用による低エネルギー社会の実現と高付加価値産業の創出とその転換である。
 
我が国は、世界的にも自然資源を比較して、大きな資産を保有している。取り囲む海洋を含めて、新たな国土開発をすることが重要である。現在海洋国家としての体系的な開発もまたそのための教育体系も存在しない。個別の開発のみではなく、海と陸が一体となっての整備計画等が必要になっている。我が国は、森や山や海等美しい景観に恵まれ、四季折々の変化も豊かで、気候の温暖な風土である。こうした、豊かさは、人工的には作りえないものであり、そこに育まれた風土は、人類の財産である。
 
しかし、戦後こうした日本の美しさを認識し、国民の豊かな生活基盤の構築の視点を欠いた国土計画でしかなかった。環境問題や自給率問題及び資本主義の弊害が叫ばれる今日、取り戻す価値として豊かな自然資源を地域のあり方を含めて、再開発するべきである。しかも開発の基本は、経済成長を第一義とするのではなく、自然資源と人生の価値を目標とするものでなくてはならない。現在国土総合計画は存在しないが、政権交代を機会に、海洋開発を含めて、各地域の自然資源の再評価と自然資源を国民の新たな長期的投資対象の資産として位置づけ、都市及び地域との連携や生活ネットワークを定着させ、将来は都市からの移住を推進することで、生命圏エリアを創造し、広域社会インフラネットワークとして、新たな生活基盤形成及び新たな文化の特性を醸成する場として確立させる必要がある。

また地場産業を新たな科学技術連携を含めて形成し、生活と研究及び産業の両立可能な「知恵技術広域創造圏」として、再構成することを実施する。高齢社会での地域の衰退を、経済的な衰退にとらわれることなく、自然資源を豊かに活用する生活圏として捉え直し、自立したコミュニティーの実現を行う。

 
そこでは、インターネットを駆使した情報交換、遠隔医療システムによる健康診断や維持、Eラーニングでのキャリア教育や新たな職業の指導と創出、TV会議システム等世界的な知の交換、自然エネルギーを動力とする社会インフラシステム、コミュニティー別の交流の場や未来課題解決のためのフューチャーセンター、スポーツやアミューズメントを通しての年齢を超えた交流や相互教育、若年層の多様な教育の実践と創造性開発の思考土壌の構築等、新たな多様な社会観の共生する構造が、生きる意味合いを深め、豊かさの目標や意義を深めることで、なお一層長期的な危機対応能力を強化することが可能になる。国民ひとりひとりの自立こそ、本質的な危機突破への建設的な目標設定と実現の能力を高めることになるのである。
 
2.社会インフラの見直し
 
「国土強靭化計画」は、莫大な資金が投入されることになる。したがって、そこには既得権や新たな既得権の形成を意図する勢力が存在し、一律に決まらないという危惧もある事は確かである。
 
したがって、立場の異なる多様な主体(行政、工事事業者、住民、専門家、研究者、デザイナー、建築家、心理学者等々)が、それぞれを主張しながら、向かうべき未来像を創造し、未来のイメージを強化しながら、何が選択の基準かを設定し、最終的には地域住民が自ら選択していくプロセスを設定することになる。

国際的な成功事例を研究する等も、大きな知の集積として検討する必要がある。最終的には、各地域特性によって、選択基準の優先は当然異なるものになる。しかしながらこのプロセスを通して、国民は未来のイメージを見つめ、選択する権利を得ると言う貴重な経験をすることになる。

 
そこに日本の未来が存在する。
 
社会インフラは、新しい局面に入りつつある。従来の工業化社会における経済発展の基盤であり、社会基盤であり、生活基盤であった社会資本は、ハード中心のインフラであり、生活の豊かさや利用者の付加価値や機能を重視したソフトの視点が欠如している。この見直しとともに、今後の知能情報社会等新しい社会構築のための社会インフラの構築が重要になっている。
 
1970年代、1980年代の工業化社会における我が国の展開は、極めて良好に社会インフラを整備してきたといえる。しかし1980年代後半から1990年代のバブル崩壊を境にして、従来の社会インフラの課題解決に遅れるとともに、新しい社会インフラ転換にも、齟齬をきたしているのが現状である。
 
そこに、大震災や原発事故であり、また今後の連動した災害の危惧と古いインフラの朽ちる危機もある。
 
資本主義の限界、近代科学の限界、経済学の限界等その本質的な課題は、従来の手法による小手先の変革では乗り切れないものである。つまり世界的に、予想を越える状況やいわゆる神話が崩壊し、新しい理論や政策や仕組みが模索されている。
 
我が国はこの間、評価の不在による問題解決能力の脆弱性等本質的な問題の理解とスピードのある解決に遅れた。特に1990年代の変革の戦略転換時期に、リーダーシップ不在のまま、官民一体となってイノベーション戦略の実行がなされないまま、リストラや経費削減等後ろ向きの戦略に終始した結果、戦後最大のストックの減価をもたらしている。
 
日本の強さであった経営システムやコスト競争や品質管理及び技術開発力は、積極的な打ち手を欠き、危機意識の欠如や中国、韓国の競争力に追い上げられ、総崩れの観を呈している。
 
また現在も変革に対する既存勢力や官民一体の護送船団体質は打破されず、危機意識、リーダーシップの欠如から、イノベーションが力にならない状況が続いている。
 
この状況を突破するためには、時代の課題を認識し、明確な国家ビジョンを確立し、国民の合意の中で、新しい政策と社会インフラの確立を強化していく必要がある。
 
その意味では、国土強靭化計画は、すべてのインフラを評価し、専門知識を問題解決に向けて上手く使いこなすマネジメント(方法・人)能力であり、専門知識を融合し、新たな問題解決の知識が創造され、これを体系化することであり、問題解決のプロセス及び解決結果から導き出される新たな蓄積やツールの構築が必要になる。

さらに、企業等の現場では、科学理論や知見(基礎科学及び応用科学)と技術の融合が、緊急でもある。国際競争に打ち勝つためには、社会価値と科学知見及び先端技術との統合による新たな価値の創出が求められ、また新たな社会インフラの変革(ソーシャルインフラストラクチャー・チェンジ)も重要なファクターとして、認識される必要がある。

このような、専門分野を深めると同時に、新しい課題の解決に対応する俯瞰的な知識や知を融合・統合する方法を、現場の課題解決のプロセスを実践させることや、企業においてもプロジェクトの経験等を行いながら、リスクを負いつつ、夢の実現に向けて苦闘する経験を積み重ねること及びその風土を伝授することが必要である。

 
今や世界はオープンイノベーションの時代であり、世界中から優秀な創造的解決型人材を集積し、国際的な競争戦略を乗り切るための方策が図られている。人材の集まる所に、高付加価値の集積が出来、持続的な課題解決の頭脳ネットワークが形成されようとしている。
 
我が国は、人材を支援する環境を緊急に整備し、知の宝庫を形成することが緊急でもある。
 
3.新たな産業基盤の構築
 
今後さらに競争条件の厳しい産業や企業では、現状の問題の分析を徹底的に行い、変革の意思決定を明確にした上で、対応戦略策定と実行計画を行うことが重要なのだが、目標やビジョンを高く掲げ、それをブレークダウンし、結果のフローや評価を体系的に行うことになる。
 
しかし我が国の行政では、分析すべき問題点やその分析結果やそのプロセスも明確ではなく、また決定のプロセスも明確ではない。特に総合的な政策に於いては、策定された計画がどう実行されているのかフォローすることが少ない。このことは、国民の税金をいわば闇に葬るという深い溝が存在するといっても過言ではない。転換戦略には新しい知恵とともに、従来の積重ねた資産を変更することが条件でもある。既存の資産は、既存の政策を実現するプロセスで、より強力な効果を発揮していく。このプロセスを切断するためには、転換に必要な周辺インフラをも変更するか、また新しく体系的に整備することが重要になる。
 
この構図は、政策モデルを政策の実現のための幾つかの主体的な対象の側に立って、条件等をブレークダウンする方法を行う必要がある。こうした実行の仕組みを策定しないことが、我が国の方向や決定をうやむやのままにし、時の過ぎ行くままに彷徨する結果をもたらしていく。バブル崩壊後この20年の喪失は、この繰り返しでもあった。今必要なものは、後ろ向きの政策実行ではなく、政策ジレンマを乗り越えて将来の布石を打つ政策と実行である。

そして主力となる政策のみでなく周辺のインフラ政策をも同時的に行うインフラ基盤政策の総合化プロセスである。今こそ情報社会から知識社会に向けての新産業へと転換が必要であるが、その政策には少なくとも新しい政策の枠組みが必要である。まず「知識社会」の定義や内容及びその転換と強化の本質的な意味を明確にし、そのための重要技術育成政策や産官学一体となった強化の方向と資源配分が第一である。

 
次にそこで生産される価値は、国民の課題解決知であり、新しい環境変化での枠組みを内包する先行知であり、総合知である。これを社会化し、産業化するのには、課題解決のための幾つかの技術や新技術及びソフトの融合技術であり、システムである。

しかもこれまでと異なる知を産業化するための投資構造の変革や金融の仕組みの変化、企業の経営戦略の策定方法の展開、経営の意思決定や人材評価の変革やその仕組みの転換、大学やビジネススクールや研究機関の新しい教育カリキュラム、課題解決のコンサルティング等の幅広い環境と関連企業の自立、政策変革の理論、産業理論、経営理論の研究とその成果、人材育成の方向付けと育成の具体化、新しい知的集積の創造等分厚い転換実行のための社会インフラが整備強化されなくてはならない。

 
しかしこうした転換にともなう、体系的で膨大な仕組みをともなう構造構築に対する「構想力」や「実行力」や民間の「自由な仕組み」の創造できる環境の整備が常になされず、「できる範囲の転換」に終わることがこの数年繰り返されているのが実体である。政策に伴う議論のみでなく、課題をどう解決するのか、そのための仕組みや構造をどう構築し、結果の評価とフォロー等をどうするのかを討議し実現するプロセスが、今後の政策策定に必要な環境作りのために不可欠なのである。
 
さらに生きた政策策定には、プロ人材の育成と人材の流動化が大きな条件になる。米国では「シンクタンク」の活動を「アイディア・インダストリー」(アイディア産業)と総称する。政策策定がレベルの高さを競い、新しい政策視点で、将来の課題解決に向けたアイディアの産業化は、今後の国際的な競争力の大きな比重を占めることになる。我が国の政策策定に於いて、国民の公平な評価の場が確立され、切磋琢磨する政策競争環境が出来上がることを推進したい。 
 
4.創造と人材
 
今後の我が国の問題は、本質的な課題として、エネルギー問題を避けて通ることはできない。我が国の安全と安心は、自然災害とともに人工物の安全性に大きな課題を残した。
 
また、科学技術の信頼性が問われた。この課題克服には、創造的な課題解決能力が大きな要素であるが、専門性の弊害にも突きあたり、いまだに原発の問題は、事故の処理とともに、放射能の処理方法が確立されないまま、電力やエネルギー問題での未決のまま、放置されるか、またはさらに新たな原子炉や核融合等への傾斜を強化しようという意図もある。
 
特に輸出の構造が、世界の風潮として語られ、日本独自の選択を避ける傾向になっている。
 
今こそ、これまで原発の安全性や原子力事業の危険性を指摘した科学技術の復権を行い、未来創造への新たな展開や解決方法の模索が開始されなくてはならない。
 
この機会を逃さず、石油ピークを越えて、人類の文明を検討する時期に入っている。
 
「幸福の研究」(デレック・ボック著)、「国家は破綻する」(ケネス・ロゴフ著)等は、こうした人類の文明の新たな扉への予兆でもある。
現政権下では、「国土強靭化計画」が推進されようとしている。然しこれまでのインフラのメンテナンスで終わってはならない。新しい世紀に対応する新しい理念に基づく社会インフラの構築と関連する制度設計を未来プロジェクトとして構築する必要がある。その中には、低エネルギー政策への転換や高齢化社会対応戦略が含まれなければならないことは言うまでもない。
 
我が国は、今未来価値を創造するための鋭い感覚を磨き、「志」を強くし、実現のためのプロセスを風土として、文化として、強固に推進するため、知の結集を行わなければならない。

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