もんじゅの後継とならない高速炉の開発は必要がない

東京工業大学 名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部・副本部長 平田 賢太郎

 政府がもんじゅの代わりに高速炉開発の方針を決めた
政府の高速炉開発会議は、先に(2016,9,21)廃炉を決めた高速増殖炉もんじゅに代わり、より実用化の可能性の高いとされる高速炉の実証炉の建設を含めた開発計画を発表した(朝日新聞2016,12,1)。
この政府の発表を報じた朝日新聞は、社説で「もんじゅ後継 無責任さにあきれる」としている。もんじゅが永い時間とお金を使いながら実用化を実証できなかったのに、さらに、その後継として高速炉の開発を計画していることを無責任だとしている。
しかし、高速炉を高速増殖炉と同様の核燃料サイクルの役割(使用目的)をもつ後継となるかのように記述されているために、政府の高速炉開発に反対している同紙の姿勢が迫力を欠いたものになっている。
同紙は、さらに、耕論(オピニオン欄)で、「もんじゅの知恵どこに」として、この問題に対する3人の有識者の意見を記している。そのなかで、
脱原発派として知られる環境経済学者は、高速増殖炉の経済性の評価から、「事業性なき開発やめろ」と言っている。
一方、原子炉工学の先生は「高速炉の重要性変わらぬ」として、先に廃炉が決まった高速増殖炉もんじゅの役割を増殖の使用目的を持たない今回の高速炉が担えるかのように言って、その重要性を主張している。
もう一人、原発推進の自民党のなかで、脱原発を主張している河野太郎議員は、「政策の間違い認め変更を」として、核燃料廃棄物の処理ができないのだからと、すでに廃炉が決まったはずのもんじゅの廃炉を改めて訴えている。
これらの報道記事を通して、朝日新聞が、政府の高速炉開発の方針に批判的な態度を表明しようとしていることは判るが、高速増殖炉もんじゅと、政府がいま、その後継としている高速炉の使用目的の違いが、明確に記述されていないために、政府による高速炉の開発を批判する理由が、読者には、正しく理解されないのではないかと懸念される。
私どもは、先に、政府によるもんじゅ廃炉の方針決定に関連して、政府がもんじゅの廃炉を決めた以上、日本の原子力エネルギー政策は終焉しなければならないと主張した(文献 1 参照)。
以下、本稿では、多少、繰り返しになるかも知れないが、高速増殖炉もんじゅを含めた政府の高速炉開発の計画が、日本のエネルギー政策にとって不要である理由を明確に記す。この私どもの訴えが、何とか、政治に反映されることを願っている。

 

 政府が開発を進める高速炉は、高速増殖炉もんじゅとはその役割(使用目的)が違う
一般に、高速炉とよばれる原子炉には、先に政府が廃炉を決めた高速増殖炉もんじゅとともに、いま、その後継として、政府が開発を進めようとしている高速炉も含まれるが、これらの高速炉の実用化には、安全性に関わる技術的な大きな困難が存在する。
それは、この高速炉では、現在、実用化されている軽水炉に較べて、大幅に大きな熱出力を持つので、その出熱を効率よく利用するための熱媒として、技術的に取り扱いの難しい溶融金属が用いられなければならないからである。
この実用化に大きな技術的な障壁を持つ高速炉のなかで、先に廃炉が決まった高速増殖炉もんじゅと、いま、政府により、このもんじゅの後継として開発が進められようとしている、増殖機能を持たない高速炉とは、その使用目的がはっきりと違うことが認識されなければならない。
すなわち、高速増殖炉もんじゅは、現在、実用化されている軽水炉から排出された核燃料廃棄物から抽出されたプルトニウムを使って、軽水炉の燃料となる天然ウランのなかの99.3 %を占める、エネルギー生産に利用できないウラン238 をプルトニウム239 に変換して利用することで、現状の軽水炉で利用されているウラン燃料の利用可能量を何十倍にも増加させることができる「核燃料サイクル」を実現できる原子炉で、夢の原子炉と言われている。
これに対して、いま、政府が開発を進めようとしている高速炉は、軽水炉から排出さ同じプルトニウムを燃料(エネルギー源)とする点は、もんじゅと変わらないが、もんじゅのような核燃料の増殖の使用目的は持たず、軽水炉から排出される放射性廃棄物の負荷を軽減することが主な目的とされている。もちろん、もともと燃料プルトニウムをエネルギー利用できる効果はあるが、その利用は、この高速炉の本来の目的にはなっていない。
なお、同じ高速炉として、エネルギー生産の目的に利用できる原子炉には、トリウムを燃料とした高速炉があるが、未だ、実用化されていない。
いずれにしろ、いま、政府が開発しようとしている増殖機能を持たない高速炉は、高速増殖炉もんじゅの代替にはならないし、もちろん、後継ではあり得ない。

 

高速増殖炉の実用化を阻んでいる安全性の問題が、高速炉で、そのまま引き継がれる
上記したように、高速増殖炉もんじゅを含めて、高速炉では、原子炉内の高い熱出力を利用するために、熱媒として、軽水炉での水の代わりに技術的な取扱いの難しい溶融金属が用いられなければならない。
この熔融金属として用いられた金属ナトリウムの漏洩が引き起こした事故で、もんじゅが、それから、20年以上も運転できないで、遂には、廃炉に追い込まれた。
金属ナトリウムは、水と接触すれば、激しく反応して爆発する非常に危険な物質である。
福島第1の過酷事故を、それ以上の過酷なものにしなかったのは、軽水炉の緊急冷却用に海水を使うことができたが、高速炉では緊急冷却用に水は使えない。
一般に、高速炉は、現用の軽水炉に較べて、炉心溶融などの過酷事故を起こす可能性は低いとされている。
にもかかわらず、もんじゅが、ナトリウム漏れの事故から20 年も、運転ができなかったのは、この金属ナトリウムを熱媒として使用することが、原子炉の安全性に致命的な影響を与える可能性があり、その対策に万全を期すことができなかったためであろう。
言い換えれば、この金属ナトリウムの使用に伴う安全性の問題が解決できれば、増殖機能を持たない高速炉だけでなく、高速増殖炉も実用化されてよいはずである。
日本でも、規模の小さい増殖実験炉、常陽の運転に成功したから、実証炉もんじゅの実用化に進んだと考えてよいが、そのスケールアップの段階での安全性が確保できないと判断されたために、もんじゅが廃炉に追い込まれたのである。
一方で、もんじゅの運転に致命的な影響を与えた金属ナトリウムを使った高速増殖炉の実証炉が、ロシアや中国で実用化されていると報道されているが、それは、これらの国の原子炉の安全基準が日本より緩いからではないかと考えられる。
原子炉の安全性の問題で言えば、絶対の安全は存在しない。この安全性のリスク冒してまで、それを持つ必要が存在しない限り、それを持たないことが、絶対の安全でなければならない(文献 2 参照)。
原発先進国の米国やフランスが、早い段階で高速増殖炉開発を断念したのは、未来のエネルギー(電力)の生産のために、この安全性のリスクの大きい高速増殖炉の実用化を不要と考えたからではなかろうか?
今回の日本の高速炉の開発計画で、政府は、国際協力として、30年を目標にしたフランスの実証炉アストリッドへの出資を考えているようである。しかし、報道によれば、このアストリッドの計画は、未だ、構想の段階で、お人よしの日本政府の出資をあてにして進められようとしていると聞く。

 

いまの、そして未来の日本のエネルギー政策に、原子力は不要とすべきである
いまの日本のエネルギー(電力)の供給源として、原子力が不必要なことは、3.11 福島の後、6 年近くなるいままで、原発電力がほとんど利用されていない状態で、私どもの生活と産業を守る電力には、余り不足を感じることはなかったことからも明らかである。
いや、原発電力が利用できなかったために、火力発電用の化石燃料の輸入金額が年間3 兆円程度増えたと言われるが、それは、日本のエネルギー政策のなかに入り込んだ地球温暖化対策としてのCO2の排出削減の要請が、石油危機以降、コスト高になった石油火力発電所から安価な石炭火力発電所への移行を遅らせてしまったからである。
もしこの火力発電所の燃料変換がきちんと行われて、世界平均並みに石炭火力が使われていたら、3.11以後の化石燃料の輸入金額は、年間1 兆円以内で済んだはずである(文献 2 参照)。
いま、日本のエネルギー政策を混迷に落とし込んでいると言ってよい地球温暖化の脅威は、IPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)がつくりだした科学の仮説である。世界の経済発展のエネルギー源として使われてきた化石燃料が枯渇に近づき、その国際市場価格が高騰して、それを使いたくとも使えない人や国が出てきているいま、世界、各国が協力して、今後の化石燃料消費を現状の値以下に抑えることができれば、IPCCの主張するような温暖化の脅威は起こることはない(文献2 参照)。
これに対して、このエネルギー資源量の制約を無視して、経済力のあるエネルギー消費大国が、化石燃料消費を継続して増加し、経済成長を図れば、いま大きな問題となっている貧富の格差がさらに拡大し、人類の滅亡を招くような軍事紛争も起こりかねない。もしかして、その時に、現在の軽水炉型原発の廃棄物から抽出されたプルトニウム爆弾を使う国が出てくるかもしれない。
したがって、いま、日本のエネルギー政策にとって大事なことは、単に自国のためだけでなく、世界の平和を侵害している貧富の格差の拡大を防ぐためにも、残された化石燃料を全ての国で分け合って大事に使い、やがてやって来る化石燃料の枯渇に備えて、人類を破滅の淵に導きかねない原子力に依存しない未来の世界のエネルギー供給の具体策を立案して、その実現を訴えることでなければならない(文献2 参照)。
こう考えると、いまも未来も、私どもの生活と産業のためのエネルギーとして、放射能漏れのリスクの避けられない、原子力エネルギーを生み出す核燃料サイクルをつくる増殖炉を含む高速炉の開発は不要と言うより、廃止すべきと言わざるを得ない。
いま、日本政府が、この高速炉開発を必要としているのは、異次元とも言われる金融緩和を実施しても2 % 物価上昇のインフレ目標を達成できなかったアベノミクスのさらなる経済成長を達成するためのエネルギーを原子力に求めているからである。
エネルギー資源の枯渇が近づき、世界経済のマイナス成長が要請されるいま、この化石燃料の全量を輸入に依存する日本経済は、アベノミクススの成長戦略を廃棄して、このマイナス成長の要請を素直に受け入れて、経済成長のためのエネルギーを原子力に依存しない、低エネルギー社会を創り上げる以外に、生き残る道がないとの厳しい現実を認識すべきである。

 

<引用文献>
1.久保田 宏、平田賢太郎;アベノミクスは日本経済を破綻の淵に導く(その5 )「もんじゅ廃炉」は原子力エネルギー政策の終焉でなければならない、ShiftM.jp 2016,10,5
2、久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉――科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、私費出版、2016年

 

 ABOUT THE AUTHER
久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

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